brise de printemps 3−16
イピアレスから10時間半、二人はコロンビア第三の都市カリに到着した。
早朝に出てきたため、市内に着いたのは16時過ぎである。
もともとの計画では、ここからさらに北へと進み、北部の大西洋沿岸から一度大西洋に出て、北からパナマの沿岸都市コロンに海中を進む予定だった。
コロンビアとパナマは陸上国境を有するものの、険しい山岳地帯であり、麻薬や武器の商人、山賊くらいしかいない。一切の道路が存在しないのだ。
そのため、パナマとコロンビアは、陸路での往来ができない。
海を進む時間を短くするために大西洋に出るルートを考えていたものの、なるべく早く南米大陸を出て、可能性としては限りなく低い追手に対して念のための行動を取ることにした。やはりキトでのことが気になるからだ。
恐らく大丈夫だろうが、大事を取って、カリから沿岸の外港都市ブエナベントゥラを経由して太平洋を進み、パナマ市に向かう。
太平洋を進むのに要する時間は1日半程度と見ており、海越えの準備が必要になる。また、エクアドルからの国境越えでそれなりに無理をしたことや、車の整備もしておくため、カリでは二泊することになっている。
あまり眠れなかった上に10時間の移動をしたため、唯斗はホテルを取るなり爆睡してしまい、シャルルが買っておいてくれた出来合いのもので簡単に夕食を済ませて、再び泥のように眠った。
翌日、ようやく唯斗は調子を取り戻した。
「めっちゃ寝たな…」
「おはよう唯斗、簡単に朝飯作っておいたぜ」
ベッドで起き上がると、すぐにコーヒーの良い香りがしてくる。ウィンナーとトーストの匂いもしてきた。
シャルルは朝日に打ち勝つような眩しい笑顔で起こしてくれて、唯斗はつい、ベッドの横に立つシャルルの腹筋に顔を押し付けた。
「あー…好きだ……」
「お、あさイチで好きって言ってもらえるなんて、今日は良い日だな!」
そう言いながら頭を撫でられ、この男いったいどうするつもりだとすら思う。唯斗はしょうもないことを考えるのをやめて、ベッドから立ち上がる。
「…よし、飯食ってシャワーして買い物だ」
「おー!」
やることを口にしてやる気を強引に出そうとしたが、シャルルが元気よく返事したため、すでに元気で負けている。土台シャルルに気力で勝とうなど無理な話だが。
とりあえずシャルルが用意してくれた朝食を食べて、シャワーをしてすっきりすると、唯斗もシャルルも半そでのTシャツに着替える。シャルルは半ズボンだった。
というのも、現在気温は35度。赤道付近、かつ標高1000メートルほどとそれほど高くないため、熱帯の気温になっているのだ。ただ、海とはアンデスの山麓に遮られているため、乾燥しておりサバナ気候に属する。
アンデスの山の終わりも近い北部、その谷間に位置するのがカリだ。山を越えて太平洋側には、カリで生産された製品を輸出するブエナベントゥラという港町があり、明日はそこから太平洋に出ていく。
ホテルの外に出ると、途端に暑さが体を包む。高地の涼しさに慣れていた体には厳しい気温だ。
「うわ…あっつ……」
「やっと赤道っぽい気温だなー。ほらほら、車行くぞ唯斗」
「ぜってぇ暑いじゃん、車ん中」
「ダ・ヴィンチちゃんが断熱材には力入れたって言ってたし、普通の車ほどじゃねーって」
暑さに強くない(寒さにも強くないが)唯斗は、すでに部屋に戻りたくなっていたが、シャルルに促されて車へ向かう。ちなみに、高級車よろしく座席の背もたれと座面の間からもエアコンの風が出る仕様だ。
だが、相変わらず太陽がもう一つあるような眩しい笑顔でいるシャルルを見ると、なんだか気がまぎれるような気がした。