brise de printemps 3−19


パナマ市で一泊してから三日、二人はパナマ西部のダビッド、コスタリカの首都サンホセを経由して、ニカラグアの首都マナグアにやってきた。

中米ではグアテマラシティに次いで二番目に大きな都市である。
明日はホンジュラスを素通りしてエルサルバドルの首都サンサルバドルに向かう予定だ。

相変わらず気温は高く31度、湿度も高くかなり過ごしにくい気候だった。
16時くらいのため、体感気温は一番高い時間帯だろう。

ホテルにチェックインして部屋に荷物を置いて、買い物に行く前に少しだけ休むことにした。
シャルルはいつも、チェックインしたあとは窓の外からの景色を眺めているのだが、今日は窓の鉄格子に首を傾げた。


「コスタリカもそうだったけど…この辺りの国は防犯意識が高いのか?」

「そうっちゃそうだな。前も言った通り、中米は治安があまりにも悪い。地元住民ですら常に警戒してるくらいだ。壁で建物を囲って、門や窓には鉄格子をはめておく」

「なんでこんな治安悪ぃの?」

「1980年代ごろ、中米紛争と呼ばれるいくつもの内戦が勃発してたんだ。ニカラグア内戦、グアテマラ内戦、エルサルバドル内戦、グレナダ侵攻にパナマ侵攻…いずれも冷戦の代理戦争だな」


冷戦期、キューバ革命によってキューバが共産化すると、ソ連はキューバを足掛かりに「米国の裏庭」と呼ばれた中米諸国の左翼勢力への武力支援を行った。
米国はこうした国々の共産化を防ぐべく、たとえ問題のある政権であっても米国側である限り支援を行い、内戦を扇動した。


「アメリカは自分にとって都合の良い政権なら、独裁でも軍事政権でも良かった。それによって虐殺が発生しても知らんぷりでな。結局、冷戦終結とソ連の崩壊によって90年代にはすべての内戦が急速に終結した。ソ連や後継国ロシアの支援はゼロ、米国もソ連がいないならと興味をなくして撤退。残されたのは、破壊されたインフラと壊滅した都市、数百万人の死者と数千万人の難民だけだった」

「大国に好き勝手言われて戦争して、結局ことが済んだら放置ってことか?」

「あぁ。そうして、貧困、格差、麻薬、テロ、銃撃、マフィアといったものが蔓延る治安の悪い国々になったわけだ。どの国もギリギリで国家を運営してる。グアテマラに至っては、治安が悪すぎて、日曜日に警察が大通りを封鎖して警備にあたることで市民が安心して外を歩ける時間を作ってる。それ以外では、グアテマラシティの住民は日中すら外に出られない」


最も治安が悪いのは、中米最大の都市グアテマラシティである。ここでは治安の悪さゆえに、外を出歩く者は日中であってもほとんどなく、日曜日の歩行者天国だけが安心して外を歩ける場所になっている。外国人はとにかく外に出ないことが徹底されている。
普通にライフル銃を所持した警備員が建物の入り口にいる国だ。


「…確かに、そういうことだけ見てると、ゲーティアみたいな考え方になってもおかしくねーかもな。でも、パナマで見たように、人には悪性以上の可能性がある。唯斗がずっと言ってた、未来の可能性を守るって、こういうことなんだな」


シャルルが述べたのは、グランドオーダーで唯斗が考えていたことだった。なぜ人理を守るのか。間違いだらけの人類史であっても、それでも、より良い未来を掴み取るために努力するその未来の可能性を守りたいのだと、唯斗はそう考えていた。


「あぁ。あくまで取り戻したのはスタート地点。ここから人類史が、人が、それぞれ一人一人が、少しでも良い未来を描けるようになって欲しい」

「それに、唯斗の未来もな」

「…?隣にシャルルがいてくれるから、これ以上の良い未来なんてないけど」

「うぐっ、不意打ち〜…」


シャルルはそんなことを言いながら唯斗を抱き締める。とりあえず肩に頭を預けながら応じておく。
唯斗にはもう、隣にシャルルがいてくれるだけで十分だ。



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