brise de printemps 3−20
その後、いつも通り夕食用に買い物へ行くため、車に乗り込んで近くのスーパーに向かう。
日が落ちた街の中、急に人が少なくなった道を走ると、目当てのスーパーに到着する。
人々は車で移動しており、スーパーやレストランには人の姿が多くある。道を徒歩で動く人がいないだけのようだ。
いつも通り、慣れたように買い物を済ませると、レジを通過した後に唯斗は買い忘れたものがあったことに気づく。
「うわやべ、ペットボトルの水切らしてるの忘れてた。すぐ買って来るから、荷物先に車に置いてきてくれるか?」
「重そうだから俺が買って運ぼうか?」
「あー…そうだな、お願いしようかな」
「ん、じゃあ先に車に入って待っててくれ」
ダ・ヴィンチお手製の車は、二人の指紋認証や虹彩認証など生体認証で鍵を開けられる高性能車だ。エンジンキーがなくても問題ない。
唯斗は軽い食材の荷物を持って、先に駐車場に出た。スーパーの明かりこそ眩いが、街灯の少ない街は対照的に暗い。
指紋で扉を開けてから、後部座席に荷物を置く。ふと、シャルルは財布を持っていなかったのを思い出した。
店内に戻ろうと扉を閉めて、車を離れた、そのとき。
「ちょっと失礼するぜ、お兄さん」
「っ、」
突然、他の車の陰から男たちが現れた。タンクトップやTシャツ姿のラテン系の男が6人、唯斗を取り囲む。
晒された腕や肩には精緻なタトゥーが大量に掘られている。ピアスも多く開けており、不良というよりギャングに近い見た目だ。
パンディージャと呼ばれる、不良青少年のグループだ。ニカラグアを中心に中米でよくみられる者たちで、日本の不良と比べて凶悪な事件を多く起こす。グアテマラなどでは、一人殺して一人前とされるほどだ。
駐車場にいた他の市民はそそくさと目を逸らして逃げていく。その方が賢明だ。とはいえ、人目がある場所で魔術を使うわけにはいかない。
「ま、とりあえずこっち来いよ」
男たちはちょうどよく、唯斗を人気のない場所へと誘導する。こちらもその方が都合が良い。
スーパーの敷地の端にある壁が崩れた場所から、木々の生えた林を抜けて、廃墟のような建物と崩れた壁に挟まれたゴミだらけの路地に連れられた。すぐそこはスーパーの明かりが煌々と見えているのに、一歩入ればこのありさまだ。
「まずは金目のもん、全部出せ」
「速くしろよ」
「サル芸してくれてもいいぜ」
下卑た笑いの男たちに、唯斗は特に抵抗せず財布を差し出す。現金しか入っていないし、現金はいつでも聖杯から出せる。
もし彼らに暴力を振るわずにこの場をなんとかできるなら、それに越したことはない。彼らにとってもこれは日常なのだ、もしかしたらすぐどこかに行くかもしれない。
「財布だけか?スマホは?」
「車の中」
「時計もアクセサリーもねぇのかよ」
スマホが車の中なのは事実だ。時計やアクセサリーもない。財布だけが金目のものにあたるが、男たちは不服だったようだ。
「チッ…アジア系のくせに」
「つーかアジア人がこの国に来るなよ」
すると突然、男の一人が唯斗に蹴りを繰り出した。すんでで結界を薄く張って受け止めたが、衝撃はそれなりに走って息が止まる。
ただ、それ以上に男は足を押さえて痛みに呻いた。
「かってぇ!んだこれ!?」
「だっせ」
男たちはケラケラ笑っているが、蹴った男は人間ではありえない強度に不信感を強めたようだ。
「防弾チョッキでも仕込んでんのか?ならやっぱ、他にもなんか金になりそうなもの持ってるだろ」
そう言って、今度は唯斗が来ていたシャツのボタンを引きちぎり、服を脱がしにかかる。周りの男たちは口笛を吹いて囃し立てた。
乱暴なそれに痛みが走り、引っ掻かれて胸元に血がにじむ。
「クソ、なんだよ、なんもねぇじゃん」
「つーかさ、お前、なんかイケメンと一緒にいたよな」
「ひょっとしてゲイ?キモ」
「あー、そんならオナホ代わりにはなってもらうか」
「趣味わりー」
男たちはそう嘲笑い、そのうちの一人が唯斗の破れたシャツからさらに破れた生地を広げ、肌を露出させる。
履いているジーンズにまで手をかけてきて、唯斗は内心舌打ちをついた。アジア人ならこれくらいしても問題ないと思っているのだろう。
乱暴にジーンズの前を寛げられ、痛みに顔をしかめたところで、そろそろ潮時かと魔術回路を開こうとする。
そこに、低く冷えた声がかけられた。