brise de printemps 3−21


「…何してんだ、お前ら」


現れたのはシャルル。唯斗はまずい、と体の内側が冷えるような感覚になった。
念話なりなんなりで報告するのを忘れていた。すぐに黙らせて何食わぬ顔でスーパーに戻るつもりだったのだ。
シャルルにこんな場面が見つかればどうなるか分からない。心配していたのは、パンディージャの男たちの方だった。


「あ?連れか?」

「おいお前も財布…」


男の一人がシャルルの胸倉をつかもうとしたその瞬間、シャルルは容赦なく男の腕を掴み、へし折った。


「ッ、ガ、ぁあああっ!!?」


男はあまりの痛みに絶叫して地面に座り込む。何が起きているのか分からない男たちは呆然とシャルルを見つめた。


「唯斗、怪我は…」


シャルルは唯斗を見て、破られたシャツと胸元に滲む微かな血、そして脱がされかけたジーンズを見て、バチッと魔力を漏出させた。


「だ、大丈夫だシャルル、大したこと、」

「…俺のものに俗物が触れたのだ、大したことだろうが」

「っ、シャルル…?」


低い声はいつもと様子が違う。シャルルは地を這うような怒りの滲んだ声で言うと、さらに魔力をあふれさせる。
同時に、霊衣が出現して纏っていた服が破れて地面に落ちる。髪が両サイドだけ伸びて、そしてその瞳が紅に染まった。

突然見た目が変化したこともあって、魔力を感じられない男たちですら、ただ事ではないと慄く。


「唯斗は、貴様らのような者のために、命を賭したのではない…ッ!!」

「な、なんだ、ラテン語…!?」

「なんなんだよこいつ…!?」


どうやら翻訳礼装が機能していない。それほどの魔力が漏れている。これでは地元の魔術師に発見されかねない。


「まずいっ、力の流れを絶て(トレギ ベラ ブルー)!」


唯斗は咄嗟に周囲に魔力障壁を展開し、その漏洩を防ぐ。シャルルはすでにその霊基を拡張させ終わり、今まで見たことがない姿になっていた。黄金と白の甲冑に身を包み、伸びた髪が揺れ、紅の瞳が男たちを睥睨している。
一度、霊基の拡張をカルデアで行ったとき、「ここから先はいつかのお楽しみな」なんて言っていた。拡張そのものは終わっていたが、見た目の変化は聖騎士としてもの以外にはなかったし、本人は結局、冒険者の装いで過ごしていた。


「な、なんで見た目が…!」

「マジックかなんかか?!なんだよこいつ!」


動揺する男たちを見渡して、シャルルはいくつかの聖剣を空中に出現させる。宝具の一部、ジュワユーズの亜種たちだ。
6本それぞれが6人の男たちに向けられており、急に現れた上に宙に浮かんでいる剣を見て男たちは狼狽する。


「意味わかんねぇよ!」

「ああ、神様、」

「ほう、蛮族の身で神に縋るか」


シャルルの声には威圧感があり、男たちはその覇気に気圧されて体から力が抜けたのか膝をつく。呆然とシャルルを見上げる顔は恐怖に濡れていた。

唯斗はシャルルのところまで駆け寄ると、甲冑越しにその腕を掴む。シャルルは自然と唯斗の腰を抱き寄せたが、いかつい甲冑に阻まれて体温が感じられないことが、なぜか悲しく感じられた。


「シャルル、もういい。適当に気を失わせて戻ろう」

「しかし…」

「とっとと気絶させなかった俺の落ち度でもある。それに、俺は早く、シャルルと二人になりたい」


しっかりと深紅を見上げて言えば、シャルルはため息をつく。そして、聖剣の先から魔力を走らせて、男たちを一斉に昏倒させた。
場には沈黙が落ちて、シャルルは聖剣をかき消す。


「…すまない、この姿は初めて見せたな。王としての俺の気質が前面に出た霊基だ。怯えさせただろう」

「いや、それは別に。シャルルはシャルルだし、俺のことを想ってくれてるのは同じだ。ああでも…」


唯斗は小さく笑みをこぼす。不思議そうにしたシャルルに、唯斗は素直に口を開いた。


「シャルルの体温が分からないのは、ちょっと寂しいな。どんなシャルルも好きだし大切だけど、ちゃんと触れていたいって思う」

「…そうか」


シャルルも表情を緩め、唯斗の額にキスを一つ落とす。
そして、霊基をもとの冒険者のものに戻した。髪も瞳も元に戻る。


「俺も唯斗の温もりが分からねーのはやだな。物足りないし。ホテル戻ろっか」

「ん、わかった」

「でも、早く俺に助けを求めなかったことについては後でお説教だぞ」

「甘んじて受けるけど、あんま否定されると立ち直れないから優しく頼む」

「じゃあ体で分からせるかな〜。触られたわけだし、綺麗にしないと」


そう言ってニヤリとしたシャルルに、元の様子に戻ったことへの安堵もあったものの、今晩は眠れないかもしれないと顔を引きつらせた。



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