長編番外編−灰になろうとも4
アーサーに抱かれたまま着地すると、同じく着地した魔術師たちがこちらにやってくる。
「何者だ!そのような大規模な魔術、このような場所で使っていいと?!」
「仕掛けてきたのそっちだろ…」
神秘の秘匿という点では許されないことなのだが、いかんせん、先に攻撃してきたヤツらに言われてもといったところだ。
アーサーの腕から降りて自分で立つと、魔術師たちが唯斗とアーサーを取り囲む。どうやら火の手はすぐそこに来ているようで、膨大な輻射熱を僅かに礼装越しにも感じる。煙で通りの上空5メートルほどより上は見えなくなりつつあり、あちこちで住宅や瓦礫に火がついて勢いを増しつつあった。
遠くでは、火災旋風という火災による上昇気流で発生する炎の竜巻がいくつも巻き起こっており、住宅や馬車を飛ばしながら住宅街を焼き尽くしている。火の粉は風によって木造住宅に付着し、火の手となる。
「悪いけど、交渉の余地はない。俺たちはあんたらを無力化する」
「できるものならな!」
魔術師の一人はそう言うと、勢いよく鎖をこちらに魔術で射出してきた。先端には鉤爪がついている。
すぐにそれを転移させて別の場所に消したが、直後、唯斗の足元から別の鎖が飛び出した。どうやら、ローブの長い丈に隠して地中を通過するものも伸ばしていたらしい。
地面から飛び出して来た鎖を咄嗟に避けることは成功したが、その鉤爪の先端が僅かに腕をかする。ほんの少しだけ血が飛び散った。
「いって、」
「ッ、マスター!」
アーサーはすぐ鎖を聖剣で叩き切ると、唯斗の腕を見遣る。大した傷ではないことは一目で分かるはずだが、アーサーは目が据わっていた。
「…人間である以上、手心は加えるつもりだったが…マスターを傷つけられてしまっては、楽にするわけにはいかない」
「だ、大丈夫だってアーサー…」
アーサーは聞いておらず、唯斗を背後に隠して一人で魔術師たちに相対する。
後ろからその顔を見上げると、アーサーはまっすぐ敵を見据え、その眼光は普段の温厚さを完全に消していた。
「我が真名はアーサー・ペンドラゴン。覚悟するといい、この時代のブリテンの民よ」
「…は、なに、を……」
愕然とした魔術師たちだったが、次の瞬間には、10人ほどの魔術師のうち7人が倒れていた。アーサーは彼らの背後に目にもとまらぬ速さで移動しており、一瞬で7人を斬っていたのだ。
「なッ、まさか本当に、サーヴァントか…!?」
「そん、ぐあぁッ!!」
驚く残りの3人は聖剣の衝撃波で吹き飛ばす。地面に叩きつけられ、全員動かなくなった。
「…ダ・ヴィンチ、生体反応」
『生きてるよ、ギリギリね。火の手が迫る中で無事に助かるかは、彼らの運次第だろう。少なくとも、アーサー王の攻撃によって、これ以上の戦闘はおろか、ヨーク公の暗殺もままならない…っていうか、まともに動けないよ』
頸椎や脊髄にダメージを負ったのだろう。回復魔術では治しきれないのではないだろうか。
続いてシオンも通信で報告を行う。
『トリスメギストスUによる状況演算。ヨーク公の生存率が100%に達しました。本数値をもって特異点の修復プロセスの終了を提案されていますが、いかがでしょう?』
『うん、じゃあこれで問題ないだろう。あとは、特異点化させている聖杯擬きの魔力リソースを回収しようか』
ダ・ヴィンチの指示のもと、あとは聖杯回収だけとなる。唯斗は息をついたが、途端に、喉の奥に少しだけ焼けるような熱を感じて痛みが走る。
「げほっ、あれ、なんか喉痛いな」
『おや、先ほどの戦闘の衝撃でアタッチメントの機能が低下しているね。幸い、魔力反応はセントポール寺院にある。まだ燃えていない区画だから、早めに移動してくれ』
「では僕が運ぼう。現代の火災の煙より有害だ」
家畜や人の糞尿が放置されていたこの時代、開渠の中に溜まった汚物などが燃えることで有毒なガスが発生している。少しでも肺に入れるべきではない。
唯斗は頷いてアーサーの腕に抱え上げられる。アーサーの首元に顔を埋めて外気を極力吸い込まないようにする姿勢になると、アーサーはすぐに地面を蹴って屋根に飛び乗る。
そのまま屋根の上を駆け抜けて、燃えていない街区へと移動した。耳元には風を切る音だけが聞こえる。
思えば、第四特異点でも、レイシフトしてすぐに魔霧によって動けなくなり、こうしてアーサーの腕の中で呼吸を整えていた。
「ここでいったん降りよう」
「ん、」
市内西部、まだ炎上していない地域に到着したようで、唯斗はアーサーの腕から降りる。屋根の上から見える黒煙と赤い炎は、徐々に範囲を広げてこちらに近づいてきているようだった。
「なんか、ちょっと第四特異点思い出してた」
「…あぁ、魔霧のときかな」
「そうそう。あのときもアーサーに最初運んでもらったなって。だいぶ抱かれ慣れただろ?」
「ふふ、そうだね。随分上手に僕に抱かれてくれるようになった」
なんだかアーサーが言うと二重の意味に聞こえてくる。いや、どちらの意味でも「上手に」なったのだろうが。アーサーも意図的にそういう意味合いを含めているだろう。それなら唯斗も少しからかってみようと気になった。
「オリュンポスでカドックに抱かれたときに、やっぱアーサーの方がうまいなって思ったんだよな」
「…ちょっと待ってくれ、今のはどっちの意味だい?」
「どっちって?二つも意味なくね?」
ニヤリとしてアーサーの顔を見上げると、からかわれていると気づいたのか、アーサーは「やられた」とばかりに苦笑した。今回はしてやったと自画自賛していると、通信からダ・ヴィンチの呆れた声が入る。
『おーい、君たちがイチャついているところをモニタリングしてるわけじゃないんだけどー?』
「査問会前に、アーサーとか他のサーヴァントから口説かれたところ自分で見つけて自分でログ消すの地獄だったんだよな。今は消さなくていいから助かる」
『ちょっと待ちたまえよ君ィ!そんなことしてたの!?』