Fraternité−2


店内の客はアーサーの美形さに色めき立っている。世界で最もイケメンな経営者として知られているが、さすがにそんなCEOがこの店に来ているとは思わないだろう、ただの格好いい外国人としか思っていないはずだ。

とはいえ、こんなにも堂々とやってくるとはなかなかに大胆である。


「繁盛していると聞いているよ」

「おかげさまで…えと、なんか飲みます…?」

「はは、この前みたいにフランクでいいよ。その方が君らしくていい」


アーサーはそう笑いながら唯斗の正面のカウンター席に座り、「コーヒーを頼むよ」と告げた。ブレンドコーヒーを淹れながら、ちらりと唯斗はアーサーを見遣る。
店の様子を見に来るだけとは思えない。何か用があったはずだが、今どき対面である必要もなりだろう。そもそもここは極東の島国だ。

しかしここでいきなり本題を問うのも無粋だろう。さすがにそれくらいの情緒は持ち合わせている唯斗は、アーサーが切り出すまでは問わないことにした。緊急だったらそれこそメールなり電話なりを寄越すし、本人も出張らない。


「…はい、ブレンドコーヒー。あなたの口に合うかは分からないけど」

「ふふ、この香りはフランスの高級メーカーのものだろう。ちゃんとした機械で淹れたこの豆でまずくなるはずもない」


香りだけで判断してみせたアーサーの言う通りで、この高級な豆を使って機械で淹れたのだ、もっと美味しくする方法はサイフォンなど手動であればあるものの、決してまずくなることはない。


「ちょうど、うちのグループの本体、キャメロット・バンクの東京支社に直接訪れる用向きがあってね。来たついでに立ち寄らせてもらったんだ」

「それは…分刻みのスケジュールだろうに」

「まぁね。でも、僕が行く段階には一通り話が済んでいるから、形式的に話をするだけさ」


わざわざCEOがやってくるのだ、議論の類はすでに終わっているのが普通だ。アーサーが来るということは、キャメロットグループの東アジア戦略そのものに影響する大きなプロジェクトがあったのかもしれない。
忙しい合間を縫って訪れてくれたからには、と、唯斗は冷蔵庫から小さなケーキを取り出した。男性なら二口あれば食べられるようなカップケーキで、エミヤが作ったものだ。


「これは…?」

「…お疲れ、なんて、CEOに言うことじゃないんだろうけどな。それしかできない」

「……うん、ありがとう。唯斗は可愛いね」

「ッ、あんたなぁ…」


にっこりとほほ笑んだ様子に、こちらを盗み見ていた女性たちが何人か机に伏せた。破壊力がでかすぎる。これでガウェインの叔父なのだ、恐ろしい見た目年齢である。

アーサーはカップケーキをひょいと摘まみ、一口で食べた。意外とそういうところは大胆なようだ。もぐもぐとしてから顔を輝かせる。


「これは美味しいね…!とても良い料理人だ。ロンドンに転職する予定があったら言ってくれ、と伝えてくれるかい?」

「転職されるのは困るけど、まぁ伝えとく」


舌の肥えたアーサーを唸らせるエミヤの実力の高さは、同様にいいものを食べてきた唯斗やサンソン、ギャラハッドもお墨付きである。もちろん玉藻の腕も確かだ。
食べ終わってから、アーサーは「さて」と改まる。


「本題があるだろうことは君も分かっていたと思う」

「…あぁ」

「一つは君たちの店の様子見だ。支社で話した女性の役員もここの話を知っていたんだ。なんでも、雑誌でイケメンばかりのカフェだと紹介されたらしいね?」

「……そういう紹介のされ方をされるとは思ってなかったけど、そうだ。まぁサンソンとギャラハッドは分かる。この国じゃ白人ってだけでイケメン扱いだしな。あの二人はその中でも群を抜いてる、と俺でも思う」

「過ぎた謙遜は嫌味になるのだけれど、まぁそこはいいだろう。名も知れているし、客入りも順調らしいから見に来れて良かったよ。さて、もう一つの件だ」


アーサーの言葉にはやや引っかかるところがあったが、本当の本題があるようなので聞く態勢を続ける。アーサーは一瞬だけ周囲をちらりと見てから、少しだけ声のトーンを落とした。


「引き受けてもらえたら嬉しい頼み事があるんだ」


それは、唯斗たち三人に訪れた新しい日々の始まりを告げる内緒話だった。



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