Fraternité−3


東京の空の玄関口、羽田空港。

国際線の到着ゲートで待っていると、事前に写真で見た通りの男前が現れた。周囲の目を惹く精悍な顔立ち、浅黒い肌、色気のある目元。身長は180センチ代後半はあるだろう、背が高く体格も良い。


「…あんたがバーソロミュー・ロバーツか」

「おや、では君が唯斗・グロースヴァレット・雨宮氏かな。初めまして、バーソロミュー・ロバーツだ」

「初めまして、よろしく」


近づいて声をかければ、穏やかに挨拶が交わされる。にっこりと社交用の笑みを浮かべたバーソロミューは、近づくと背の高さがより顕著に分かる。20センチ近い身長差に少しイラっとしつつも、握手を解いた。


「車で来てるんだが、荷物はそれだけか?」

「あぁ、郷に入っては郷に従え、衣服の類は街で買うよ」


バーソロミューはキャリーケース一つだけで来ており、スーツ姿のわりに軽装だ。この国に来た理由を考えればそれもそうか、と唯斗は少しだけ同情しつつ、駐車場へ向かった。


***


アーサーに頼まれたこと、それは人一人を預かるというとんでもないものだった。
最初聞いたときは何を言っているんだこいつは、という目をしてしまったがアーサーは正気だった。

そして紹介されたのがこの男、バーソロミューである。

ロバーツ家と言えば、世界最大のクルーズ会社「Black Bart」を経営する英国の資産家で、旧貴族の家系である。本家はウェールズにあると聞いている。
豪華客船ロイヤル・フォーチュン号などは日本でも有名で、他にも多くのクルーズ船や、海上貿易も扱っている。

海洋国家である英国らしい会社にて、バーソロミューはグループの小売・物流を行う大きな会社を任されていた。船内での販売やクルーズターミナルでの販売・免税店の経営、客船で一緒に運ぶ貿易貨物の管理会社など、バーソロミューが経営していた会社の下にも多くの子会社があるような大企業だ。

しかし、悪事を働いていたことが内部通報で明らかになり、一族は刑事告発を恐れ、バーソロミューに対して刑事事件にしない代わりに勘当して家と会社から追放するという手段をとった。
こうして行き場を失ったバーソロミューは、同じウェールズの生まれで友人のトリスタン・ライオネスというキャメロットグループの重役を頼った。トリスタンはガウェインやランスロットとも旧知で、アーサーともプライベートで付き合いがあったことから、アーサーはトリスタンの頼みによって、あくまでプライベートの範囲でという条件で助け船を出した。

それが唯斗である。日本の唯斗のところに置いて面倒を見させ、欧州から離れさせるという方法だ。それでも良ければアーサーの庇護が受けられるということで、バーソロミューは訪日に応じたらしい。

駐車場に着いて、普通の乗用車に乗せる。当然のように後部座席に座ったお貴族様を確認してから、唯斗も運転席に座って車を発進させた。

すぐに車は高速道路に入り、芝公園方面へと向かっていく。


「どこまでもビルが続くのだね、この街は。さすが世界最大の都市だ」

「…まぁ、パリよりは居心地がいいと思ってるな、俺は」

「君は確か、日本生まれフランス育ち、ルクセンブルク勤めという経歴だったと聞いているよ。欧州はいろんな人間がいるが、それでもなかなか聞かない経歴だ」

「あんたのような映画みたいな話もリアルじゃ聞かないけどな」

「ふふ、それもそうだろうね。私も驚いているよ、まるで映画の主人公のようだ。私のやってきたことは聞いているかな?」


英国人らしい泰然とした態度だ。
笑顔を絶やさず、延々と続くコンクリートと緑の街を眺めて話すのをバックミラーでちらりと見てから、唯斗は肯定した。


「不正会計や海外商社の売却におけるインサイダー取引、港湾整備計画を事前入手して土地を安価で購入しロジ施設のコスト圧縮を行い見返りに情報元政治家への贈賄、だったか?」

「さすがルクセンブルクの金融会社にいただけある。この手の話は私より詳しいか」


バーソロミューが社長としてやったことはそうした不正会計だ。架空請求を数人の営業に行わせていたことに端を発し、やがてそれはエスカレート、シンガポールの商社を売却する際にその新規ビジネスを複数の機関投資家に秘密裏に話して買収を好条件で成立させ、売却後にそのビジネスによって株価が上がることで投資家も利益を得るというインサイダー取引、インドネシアの港湾整備計画を地元政治家から入手して開発予定地の土地を安価に購入することで、計画が公表されて土地の価格が上がる前に一等地を得てそこに建てたロジスティック施設のコストを圧縮するという贈収賄と不正入札、そういった不正を行っていた。



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