Hide and seek−3


ここのところよく唯斗の前に現れていたロビンはすっかり姿を見せなくなった。
もちろん、レイシフトなど業務であればいつも通り一緒に動くし、そのときの言動も会話もいつも通りだ。
むしろ、しょっちゅう唯斗のところに来ていたここ最近がおかしかったため、元に戻ったと言った方がいい。

それなのに、唯斗の消えたいという願望はますます強くなっていて、一人でいるときはほとんど常に、頭にそれが巡るようになっていた。

これはあまり良くない。唯斗はどうにか、もっとこの感情を誰にもばれずに表に出して発散させる必要があると考えた。

そこで、唯斗はほとんど人がいない、打ち捨てられた区画へ向かうことにした。
爆発事故で発生した瓦礫のうち、単純に捨てられない特殊なものを並べた廊下がある区画で、東館の地下深い階層にある。このあたりは施設の維持管理に必要な重機など普段は滅多に使わないようなものを保管する倉庫が並んでいる。
このフロアの一部は、カルデアで最も深いところにある居住区画となっており、そこは事故前から誰も生活していない場所だった。そのため、サーヴァントも住んでいない。

唯斗はエレベーターと階段を乗り継いで目当ての区画に到着する。その一室の入室キーを初期設定からやり直して唯斗でも入れるようにすると、自室と同じ作りの部屋に入った。


「さっむ…」


さすがに空調が最低限にしかかかっていないだけあり、かなり冷え込んでいる。室温は恐らく5度代だろう。平然としていられるのは、魔術回路による体温調整と礼装の機能のおかげだ。
唯斗はマットレスだけのベッドを魔術で埃を払い綺麗にしてから腰掛ける。自室にいるのと同じような光景だが、誰も使っていなかった部屋だけあり、命や生の気配がまったくない。無機質なそこは、ひどく落ち着いた。

これはなかなか悪くない場所だと判断して、唯斗はマットレスに横になる。冷たいそれが体を冷やし、空気中にはうっすら埃が漂う。清潔な施設なのでカビこそないが、その代わり凍てつく寒さで空気が尖っているかのようだった。
これなら、体の細胞ひとつひとつが、空気中へと体温とともに溶けだしていくかのような感覚が得られる。体が冷える感覚が、この寒い空気と一体化していくようだ。吐いた息は真っ白で、それにもまた、自分の体積が減ったかのような錯覚が得られる。


唯斗はそうして、1日のうち自由な時間はすべてこの部屋で過ごすようになった。照明もつけず、暖房もつけず、寒さを感じながらマットレスに横たわる時間が一番落ち着く。
おかげで少しは、消えたいという衝動がマシになってきたと思う。

そんなある日、いつも通りその部屋で横になっていたときだった。いつの間にか寝てしまったらしく、体を揺すられて意識が覚醒する。


「マスター、大丈夫です?」

「っ、やべ、寝てた」


ばっと起き上がると、驚いたようにロビンが後ずさる。どうやらロビンが起こしに来てくれたらしい。


「なんでまたこんなところに?つか、寒すぎでしょ、風邪ひくとかいうレベルじゃねぇぞ」

「まぁ、ちょっとな。てかロビンはなんでここに来たんだ?」


こうしてロビンが唯斗のもとを訪れるのは久しぶりに感じる。主要区画にいなさすぎて心配させてしまっただろうか、と思っていると、ロビンは苦笑する。


「時間、見てみ?」

「え…うわっ、打ち合わせの時間じゃん、やべ…!」

「ドクターに呼んでくるよう言われましてね。パスたどれるから良かったものの、こんなところ普通は見つけられませんて。ここはモニタリング機能死んでるから、あんたの反応も見つけられねえと思いますよ」


ロビンのなんでもない言葉が、なぜか少し刺さった。どうやらロビンは、ロマニに唯斗を呼ぶよう言われてやってきたらしい。単に探すよう頼まれただけということだ。
それ自体は当然のことで、打ち合わせに遅れているのだから自然のことである。それなのに唯斗は、ロビンがここに来た理由を知って、落胆しているようだった。
あまりにも馬鹿らしくなり、唯斗はため息をついて立ち上がる。こんなしょうもないミスで迷惑をかけて挙句にがっかりするなど、何様だという話だ。


「…悪い、迷惑かけた。すぐ行く、走るからついてきてくれ」

「了解。これくらいお安い御用ですよ」


ニヤリといつも通り笑ったロビンに、少し安心する。面倒だという顔をされていたらと不安だったが、少なくとも、表には見えなかった。



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