Empathy−3
召喚から1週間、霊基の拡張も一通り終えたのだが、藤堂は「一人だけ誠の羽織ってのもな」と言って、第一再臨の状態を維持している。なお、第二再臨のアヴェンジャーとしての性質が濃い姿は感情を制御しづらいため、あまり好まないようだ。そういう理性を重視するところは武士を感じる。
そんな中で、小特異点へのレイシフトが行われることになった。
目的は修復だけでなく、藤丸が新しく召喚した近藤勇と、唯斗が新しく召喚した藤堂の訓練のためだ。
北米の針葉樹林の中にレイシフトしてきた4人は、青空の下、爽やかな森林の風を浴びる。
「また君とこうして剣をふるうことができて嬉しく思うよ」
「…はい、僕もです」
近藤は柔和な笑みで藤堂に語り掛ける。新選組の羽織をしている姿は、近藤の局長としての真の姿であり、特異点で見せた霊基とは見た目も言動もまったく異なる。
近藤が藤丸を、誠を預けるに足る相手だと認めた証拠なのだという。
当の藤丸は、「局長と藤堂君が喋ってんの感動〜!」などと言っていた。昔、漫画で新選組を扱っているものがあって以来、新選組には詳しいらしい。
「藤堂さん、今日は羽織しなくてよかったのか?」
「…お前、からかってるだろ」
近藤と一緒に戦うのだから羽織でも良かったのでは、と思って言うと、藤堂はじとりとした目で見てくる。
「からかってはない。オタクはそういうの喜ぶんだよ。なぁ、藤丸」
「そういうこと。歴史オタクは分かってるよね」
「あんまお前のそれと一緒にされたくねぇけどな」
唯斗と藤丸の会話は、藤堂にはよく分からなかったらしい。それもそうだろう、藤堂はかなりの常識人であり、突拍子もないカルデアに驚いてばかりいた。こういうところはカドックを彷彿とさせる。
そこに、唯斗はレイシフト直後から張り巡らせていた探査術式に反応があったことを感じ取る。
「…来たぞ、切り替えろ」
『相変わらず早いね。こちらでも敵の接近を確認したよ』
通信からダ・ヴィンチも報告する。敵の数は数体だが、魔力反応が大きい。
「大物だな。ダ・ヴィンチ、捕捉できたか?」
『できてるよ。まいったな、想定よりずっと強敵だ。スプリガンとヨトゥン、2体ずつ。しかもキメラの群れも接近中。トラオムの余波がやはり大きいようだ』
想定よりも敵性体の数が多い。訓練用でやってきた特異点だったが、どうやらずっと悪質だったようだ。
アルジュナ・オルタやモルガンのようなサーヴァントなら問題なかったのだが、この二人で戦うにはかなり厳しい状況である。とはいえ、状況は厳しい方が訓練になる。接近しているのも、一体一体は大したことのないエネミーだ。
「藤丸、とりあえずギリギリまで粘るぞ」
「了解!」
「なっ、大丈夫なのか」
すると藤堂が懸念を示した。これが初陣ということもそうだが、きちんとデータベースを熟読していたようなので、エネミーの性質が厄介であることは理解している。彼我の戦力差を冷静に分析してのことだろう。
「主殿と唯斗殿がいけると踏んでいるのなら問題ないだろう。藤堂君、我々は彼らを信じてこの刀を預けるのみだ」
「っ、はい。マスター、指示を」
唯斗が言う前に近藤がそう言ってくれた。きちんとサーヴァントとしての役割に徹しながら、藤堂に局長らしく指示を出すようなこともなく、適切な言葉をかけてくれている。さすがだな、と思いつつ、早速針葉樹をなぎ倒して現れたスプリガンに狙いを定める。
「藤丸、後方からヨトゥンが到達する。スプリガンはこっちでやる」
「オッケー!」
今でこそこうした短い会話で済んでいるが、以前はあれこれ唯斗が指示していた。次第に作戦会議のような会話になり、それは短縮され、今では分担を端的に決めるだけとなっている。
しかも、言わなくても自明のこととして、二人のサーヴァントが近距離戦闘を行う英霊であることから、あまり距離を取らず唯斗の結界が藤丸もカバーできるようにすると互いに理解している。
「藤堂さん、スプリガンは背面からの攻撃に弱い。常に背中を取れるように動きながら首を狙ってくれ」
「了解した」
すぐに藤堂は飛び出す。その速さは人間ではありえないのだが、それは左手の義手を外してそこに仕込んだ大砲をビームのように撃ちだして急加速しているためだ。
魁先生のあだ名通り、その初速は非常に速い。