Empathy−4


藤堂はすぐにスプリガンの背後に回り込み、愛刀である上総介兼重で切りかかる。刀剣として長い部類に入る長尺だけあり、リーチが長く、うまい具合に大仰な攻撃を避けつつ最低限の動作で切りつけた。

さらに、左手の義手を口で咥えて外すと、仕込み刀でさらに接近して深く切り裂く。スプリガンの攻撃の間合いをその内側に入って躱すことで、連撃できるようにしていた。


「…やっぱ新選組ってちょっとおかしいな」


近代の人間として英霊になっているくせにこの立ち回りだ、サーヴァント化して体の駆動域が増していることを考慮しても人外染みた強さである。

するとそこに、キメラの群れが到達した。予想より少し早いのは、ヨトゥンによって木々がなぎ倒されたからか。
近藤はヨトゥンを一体仕留めているが、まだキメラたちの間合いには入っていない。


「藤丸、」

「うん、お願い!」


呼びかけるだけで藤丸は唯斗のすぐそばに近寄る。結界の範囲に入るためだ。
唯斗は結界を展開し、薄くも強い魔力障壁が二人を守る。キメラの一体が激突したが、びくともしなかった。
その一体はすぐに近藤によって切り伏せられる。


「近藤さん、もう一体のスプリガンが近いから、攻撃範囲に入りそうになったら声かけるね」

「それまではキメラの掃討、ですね」

「そう、私たちのことは気にしないでいいから!」


近藤は頷くと、複数のキメラを同時に相手する。キメラ自体が複数の魔獣で構成されているため、頭数以上の数を相手しているのと同じだ。こちらもやはり常軌を逸した強さだった。

一方、藤堂はスプリガンを仕留めこちらに戻ってくる。


「スプリガンは倒した。次はどうする」

「まだヨトゥンとスプリガンが一体ずつこちらに向かってきてる。キメラは近藤さんが相手してるから、2体をけん制してくれ。キメラと混戦するのは避けたい」

「了解」


藤堂は再び目にもとまらぬ速さで飛び出し、ちょうど現れたスプリガンに切りかかる。すでにその向こうには、木々が次々と倒れているのが見えており、ヨトゥンも接近しているのが分かる。


「ここのキメラ、ほかより硬いな。魔力が濃すぎる。トラオム派生の特異点は神秘の力が強いみたいだ」

「撤退する?マシュがいないから一時召還はできないけど、いったん戻って再レイシフトはできるし」

「そうだな、この戦闘データだけ持ち帰るんでも、この特異点の性質を考えれば及第点だ。ダ・ヴィンチ、」

『はいはーい、私も現場の意見に賛成だよ。ヨトゥンはともかく、スプリガンとキメラはちょっと数が多い。まだスプリガンは反応があるし、キメラの別の群れもある。一度その場を離れ、南南西2キロの霊脈でレイシフトしよう』


いくら途中帰還が可能といっても、そもそもレイシフトは大量のエネルギーを使用する。コストは減らせるなら減らしたいため、可能な限り霊脈を用いたレイシフトが推奨されていた。
唯斗はキメラがまだ相当数いるのを見て、距離を置くには難しい状況だと分かる。


「距離を取りたい。一気に数を減らす必要があるけど、近藤さんはともかく藤堂さんの宝具が分からないな」

「近藤さんの宝具はスプリガンとヨトゥンなら距離空けられるけど、キメラは難しいかも」


藤丸の意見に頷き、唯斗は念話で藤堂に呼びかける。


(藤堂さん、いったん撤退する。宝具でキメラと距離を取って俺たちが撤退する隙を作れるか)

(今いるキメラは4体か。撤退するんだよな、それなら問題ない)

(?あぁ)


撤退するなら問題ない、と聞こえる言い方を疑問に思ったが、藤堂はすでに宝具の解放モードに入っていた。


「近藤さん!マスターを頼みます!」

「…あぁ、任された!」


近藤は頷くと、結界にアタックしていたキメラを打撃で吹き飛ばす。
そして藤堂の言葉に、唯斗は嫌な予感がした。京都の特異点ではついぞ宝具を見せなかった藤堂だったが、解放すると動けなくなるのか、あるいは。

唯斗は止めるべきかと口を開いたが、すでに藤堂は足をトントンとスナップさせ助走をつけながら魔力を放出していた。あらゆる行動に迷いがなく早い。


「魁!一番星!!」


そして藤堂はそう叫ぶと、一瞬で残像も見えないほどの速度に加速する。いくら人間離れした近代の英霊といえど、この加速は人間の英霊に可能なものではない。


「っ、まさかあいつ…!」


やはりか、と唯斗は唇をかみしめる。もとより無理やり継ぎ接ぎにして霊基を構成している体だ、神秘のない近代の人間であることもあり、あれでは保たない。

魔力が直接漏れ出す青い光に包まれて、藤堂はまさに流れ星のようにキメラ4体を同時にしか見えないような速さで貫く。その衝撃波で木々が揺れ、地面には藤堂が通った跡がえぐれて残っていた。

そして、その光がひときわ眩く光った直後、特異点内でのパスが感じ取れなくなる。カルデアで霊基が再構成され先に帰還した形になっていることだろう。
体がバラバラに崩壊しながら敵を貫くとき、どれほどの苦痛を感じているのだろうか。

藤丸も口元を抑えており、唯斗は握りしめた拳に痛みが走った。

しかし、とりあえず唯斗は結界を解いて、スプリガンたちを足止めしていた近藤に目をやる。藤丸も歴戦のマスターらしく切り替えている。


「…行くぞ、撤退だ」

「了解。近藤さん!」


近藤はすぐにこちらにやってくると、藤丸を抱きかかえて走り出す。唯斗は足に強化をかけており、近藤と並んで走り出した。


「…唯斗殿、どうか藤堂君のことは𠮟らないでやってほしい」

「何について?」


走りながら近藤にフォローのように言われたため、冷静にそう返す。近藤は一瞬言葉に詰まったがすぐ答える。


「宝具を使ったことについてだ。あの状況では最善策だったし、撤退するなら私一人で君たちを守り切れる。まだ戦闘が続くなら彼も宝具を使わなかったはずだ」

「そのことなら怒らない。俺もあんたに同意だ。でも、宝具を使うと消失することについて事前に申告しなかったこと、俺が言ったときに報告しなかったことは別だ」

「それは…その、お手柔らかに頼むよ」

「俺は優しいけどな。なぁ、藤丸」


静かに尋ねると、藤丸は近藤の腕の中で露骨に視線を避ける。


「や、優しさが起点になってはいるんだけどね…理詰めで正論ばっかりだから落ち込むんだよね…」


当たり前だろ、とため息をつくと、近藤は苦笑する。すでにレイシフト地点は目の前に見えていた。


「良い関係だ。この長い旅で培った絆を感じるよ。短い時間だが、私にも唯斗殿の気質は理解できるし、藤堂君への怒りの本質もよくわかった。それなら私からも何も言うまい」

「むしろ近藤さんからも言ってほしいくらいだけどな。まぁ、俺とあいつの問題だからいいけど」


この会話も管制室で聞こえているだろうし、管制室のコフィンで霊基が復元された藤堂も聞いているはずだ。今の会話だけで唯斗の意図を理解してくれていればスムーズに話は進むのだがどうだろうか。
そう思いながら、帰還レイシフトが始まったのを感じた。



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