Empathy−5
カルデアに無事に帰還すると、コフィンの前で藤堂がおろおろとした様子で待っていた。コフィンを出た唯斗のところまで来るも、やはり会話が聞こえていたためか、ばつが悪そうにしている。
「あー…その、マスター…」
「大丈夫、今はそこまで怒ってない。このあとのお前次第だから」
「それもう怒ってるじゃん…」
藤丸の声が隣から聞こえてくるが聞こえないふりをして、簡易チェックを済ませたダ・ヴィンチを見やる。
「問題あったか?」
「ないよ。装置の冷却をするから、再レイシフトはもう少し待とう」
「分かった。藤堂さん、俺の部屋来てくれ」
「あ、あぁ…」
藤丸やダ・ヴィンチがまったくこちらを心配していないのは、唯斗の怒りの根源がどこにあるのか理解しているからだ。こういうところは、やはり付き合いの長さを感じる。
「藤堂君、怯える必要はない。だが、嘘や隠し事はしない方が身のためだよ」
「…はい、分かりました」
近藤も朗らかにそう言ったため、藤堂は少し肩の力が抜けたように見える。確かに、藤堂の目には少しだけ怯えも見えたし、だからこそ唯斗も「今はまだ怒ってない」と言ったのだが、いくらマスターとはいえ唯斗に怯えを抱くだろうか。
年齢だって下であるし、身長もやや唯斗の方が高くても体つきはまったく違う。主従という間柄でもなく、せいぜいが指示役と実働というくらい。
唯斗に対するものというよりは、内面的なものだろうか。その場合、言葉はより慎重に選んだ方が良さそうだ。
管制室からそう離れていない自室に到着し、ベッドに腰かける。藤堂は少し迷ってから、唯斗の斜め前に立った。隣に座ることはもちろん、真正面に立つことも避けた。
警戒、心の距離に由来するものだ。唯斗としては、少なくとも今、この距離を詰めるつもりはないためそのままにする。
「…さて、藤堂さん。俺が特異点でキレてたことは、管制室で聞こえてたんだよな?」
「あぁ。悪かった、最初に言っておくべきだった」
「なんで?」
藤堂の方から「悪かった」と言ってきたため、その理由を問う。厳密には、「なぜ最初に言っておくべきだったのか」を聞いている。
藤堂は特によどみなく答える。
「あんたはマスターとして、俺の宝具が一回使ったら終わりであることを考慮してから作戦を立案する必要があった。じゃないと、俺が宝具を使うとマスター一人になって危険な場面が出てくるし、そうなる可能性をなくすための作戦を立てるべきだろ」
藤堂の言葉はまったく想定内だ。もちろん、それは事実だ。一度しか使えない宝具なら、使いどころの把握と使うべき時までをしのぐ手段の確保が必要である。
しかし唯斗の言いたいことはそこではない。
「それは事実だけどどうでもいい。事前に確認しなかった俺の落ち度でもあるし、今はもはや過ぎたこと以上でも以下でもない。俺はそんなことを気にしてるんじゃねぇんだ」
「え…」
藤堂は予想と違う唯斗の言葉に驚き、そして焦る。恐らく、ほかに思い当たることがないからだろう。
昔はこんな他人の機微など分からなかったのに、すっかり唯斗もいっぱしの人間らしくなったものだ。
「死ぬと分かってて、それも体がどんどん崩壊していく苦しみを凝縮させながら敵に突っ込んでいくなんて宝具、そんな簡単に使えるわけないだろ」
「…サーヴァントは兵器だ。魔術師からすれば使い捨ての道具だろ。サーヴァントでなくとも、僕はしょせん、そうやって使い捨てるくらいしか使い道なんてない」
サーヴァントは兵器に過ぎない、と考える英霊はほかにも多くいたし、そのたびに藤丸が分からせてきたわけなので、唯斗としてもそこまでなら大した怒りを覚えることはなかっただろう。だが、そのあとに続いた、サーヴァントでなくとも自分は使い捨ての駒である、という言い方に、ぶちっと頭で何かが切れる音がした。