Empathy−6
「……へぇ、なに、お前は、俺がお前を平気で使い捨てるような奴だって思ってるわけだ。お前の宝具見ても何も思わねぇような奴だって思ってんだな」
「そ、そこまでは言ってないだろ、でも事実としてサーヴァントはそういう術だし、僕はただの剣士どころか半端ものだ」
唯斗の声が低くなったのをみて、藤堂はさらに焦りを濃くする。まさか追加で地雷を踏みぬいてくるとは。
「じゃあどういう死に方してもいいって?俺が、それを気にしないってわけだ?」
「そんなことまで言ってないさ、でも、藤丸ならそういうこと言いそうだけど、あんたはそもそもそういう感じじゃ…」
だがその言葉に、今度は唯斗が言葉に詰まった。藤丸なら、死んでほしくないから宝具解放に慎重になったとしても、唯斗はそういうようには見えない、という趣旨だ。途中で自分の言っていることに気づいて言葉を止めたが、もうほぼ言ってしまったあとだ。
この場に藤丸がいれば、「マシュ、一発やって」くらいは言っていただろうし、マシュも応じただろう。
「…ぁ、悪い、今のは、そういうつもりじゃ……」
「じゃあ、どういうつもりだよ」
なんとかそう発したが、声が少し震えていた。だせぇな、と内心で自嘲する。実際問題、唯斗はあまり感情を見せずに過ごしているのだからそう勘違いされても仕方ないだろうに、これくらいのことで込み上げる感情を押しとどめるのに精一杯だ。
一方、藤堂は唯斗の声にいよいよ動揺していた。
「ただ、その、あんたは冷静沈着で聡明で、魔術の素人である僕から見ても優秀なマスターだろ、だから、ちゃんと最善策を適切に選び取るっていうか、感情論で動かないっていうか」
取り繕うというわけではないが、必死に言葉を繋ぎ、しかし最終的に、藤堂は肩を落とした。
「…本当に悪かったよ。ただでさえ、僕の宝具にショックを受けてのことだったのに、傷つけてしまうことを言った。ごめん」
落ち込む様子は、若干小型犬っぽく見えて、雰囲気に対してそんなしょうもないことを思ってしまう。藤堂の焦りやここまで気落ちする様子を見れば、唯斗も怒りやショックはすぐピークを越えて喉元を過ぎていく。
きちんと藤堂が言葉を尽くしてくれたのもあった。史実でも聡明な人物として知られている。唯斗の感情の動揺をきちんと理解しているようだった。
それなら、あとはその背景でもある、唯斗のことを話すべきだ。そこまで話さなくても、唯斗が普通の魔術師ではないためサーヴァントを道具扱いしない、と伝えることはできるし、だからこそ距離を詰めようとは思わなかった。
しかし今は、この卑屈な男に、きちんと信頼を示したかった。
とはいえ唯斗は成長したとて人間一年生に過ぎない。こういうときにどうやって自然に距離を縮めるのかまでは分からない。そもそも初めて恒常的に契約するサーヴァントなのだ、何もかも手探りである。
そこで、唯斗は迷った挙句、藤堂の服の裾を握る。
「っ、」
「…俺は、人類の築いた歴史をここで途切れさせたくないから戦ってる。俺にとって歴史は大切で、大好きで、尊いものだ。そんで、英霊はその歴史を前に進めてきた人たちだ。だから、歴史への敬意の上に、サーヴァントへの敬意がある」
唯斗はそう話しながらも、視線を上げる勇気までは出ず、視線を下げたままにしてしまう。そのため、藤堂が裾を握る唯斗の手に義手ではない右手で触れようとして迷っているのも見えていた。
「藤堂さんの宝具は、藤堂さんの生きた証そのものだ。その誇りがあるから、宝具を使うなとは言わないし、俺も使うのをやめたりはしない。けど、簡単に宝具を使うような戦い方もしない」
「…うん」
「だから…ちゃんと、俺のそばで戦ってほしい…」
再び声が震える。先ほどとは少し違う感情だ。
それを聞いて、迷っていた様子の手が迷いなく唯斗の手を握った。体は小柄でも刀剣を握るその手は唯斗と同じくらいの大きさで、節くれだった厚みのある手だった。そして義手の左手で唯斗の頭をそっと撫でる。
「僕にそんなこと言ってくれる奴がいるなんてな」
相変わらず卑屈なことを言っているが、100%の卑屈さではないのは、きちんと唯斗の思いが伝わったからだろう。
いつの間にか唯斗の正面に立っている藤堂はすぐ近くにいて、距離が縮まったのだと分かる。