Empathy−7


「…隣、失礼するぞ」


すると、藤堂の方からさらに一歩、距離を詰めてきた。ベッドの淵に腰かける唯斗の左隣に座る。
藤堂はそのまま正面を見据え、少し沈黙したのち、口を開く。


「今から言うのは全部出任せだ。真面目に聞かなくていい。実は僕は、とある藩主のご落胤ってやつでさ。産まれた時から誰にも必要とされなかった」


そうして話し始めたのは、藤堂の生い立ちだった。
藤堂平助は、伊勢の名門・藤堂家と何らかの関係があったというのが通説だ。ただ、具体的に誰の子なのかは分かっておらず、最有力な説では藤堂家一門のうち江戸にある一族の出とされる。いくつかある学説の中でも、伊勢津藩藩主・藤堂高猷の落胤であるという説は最もドラマチックながら根強い支持がある。
どうやら、それが史実ということらしい。


「僕は父を見たこともないし、母は、嘘か本当かも分からない父の話しかしない人だった。そうして…「いつか父が迎えに来る」って言い続けて、死んでしまった」


最も有力な説では、江戸の藤堂家一門のうちのある家において、側室の子ながらお世継ぎであったそうだが、実際には落胤として冷遇されていたらしい。
藤堂高猷は多くの子を成しており、自身も明治維新後まで生きた大往生であったが、藤堂平助が報われることはついぞなかった。

話しぶりからして、藤堂の母は子を通して父親を見ており、ずっと藤堂のことは見ていなかったようだ。きっとそれは、幼いながらに藤堂も理解していたはず。


「…お前は、僕にそばで戦ってほしいなんて言ってたけど。ほかにサーヴァントと契約すれば、僕である必要はなくなるだろ。むしろ、僕よりも優れた英霊と契約した方が、お前にとっては合理的で安全で、確実だ」


無言で唯斗は藤堂を見つめる。遠くを見る藤堂の青い瞳は凪いでいたが、そっと唯斗と目を合わせる。


「…なあ、僕は、おまえに必要か?」

「っ、」

「……ごめん、急におかしなことを言って。忘れてくれ」


息を飲んだ唯斗に、藤堂は場をとりなそうと謝る。だが、「忘れてくれ」と言うわりに言葉を待っているようにも思えた。
どうやらこの男も、相当に不器用らしい。思えば、京都の特異点でも決して斎藤のように器用には見えなかった。良くも悪くも実直なのだ。

唯斗は藤堂の言葉に驚きこそしたが、それは、自分に似ていると思ったからだ。境遇が、そして今の葛藤が、あまりに似ていた。


「…そっか。似てるんだな、俺たち」

「似てる…?」

「あぁ。俺もさ、母は俺を産んで亡くなって、魔術師ながら母を愛していた父は、母の死に耐えられなくて、母を甦らせようと、俺を生贄として召喚術式を使おうとした」


死んだ者を甦らせる、そのために子供を生贄とする。その発想に藤堂は目を見開いていた。それもそうだ、神代ならまだしも現代での出来事とは思えない。


「うちは召喚術の名家だったからさ。英霊召喚術式を転用して母という情報を具象化しようとしたんだ。触媒は母の血を引く俺。俺はそのためだけに生かされてた」

「うまくいったのか」

「まさか。普通に召喚は失敗、父は魔力を術式に吸われて死亡。俺は瀕死だったところ、大きな物音を聞いた近所の住民に通報されて警察に見つかり、無事に保護されたってわけ。まぁ、神秘の秘匿が危うく破られかけたもんだから、時計塔に尋問されたんだけどな」

「子供を尋問したのか」

「魔術師なんてそんなもんだ。俺はフランスで伯母に虐待されながら過ごして、日本で父親に殺されかけて、ロンドンで尋問されて、またフランスで伯母に虐げられて…そんで最終的にカルデアにやってきた」


それなりに波乱万丈な人生だ。誰にも必要とされなかったどころか、誰からも存在を認められずに生きてきた。
藤堂はしばらく二の句が継げない様子だったが、視線を下げ謝罪する。


「…ごめん、僕よりずっとひどい目に遭ってきたのに、こんな話するなんて」


藤堂ならそう言うと思った。そもそも比べるものではないし、時代だって違う。
誰にも顧みられずとも努力して、新選組や御陵衛士として活躍してみせた藤堂と、ただ流されて無気力に生きてきた唯斗とでは、人間として根本的に異なる。
それでも、と唯斗は思う。


「英霊にこんなこと言うのは不遜かもしれないけど、似てるとこがあるのは嬉しい」

「僕と似てるのが?」

「故郷の英霊と似てるのが。それに…」



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