Empathy−8


唯斗は、もう一つの似ている部分を挙げようとして、少し迷う。ここまで赤裸々に言ってしまった良いものか、という迷いだ。
無意識にその迷いは手に出てしまったようで、唯斗は左手の小指で藤堂の右手の親指をなぞっていた。藤堂はそれを見逃さず、そっと唯斗の左手を自身の右手で握った。その温もりに知らず安堵して、言葉を選べた。


「俺に藤堂さんは必要だけど、藤丸やカルデアには、本来、俺は必要ないんだ。それがさっきの質問への答えだ」

「藤丸もダ・ヴィンチも、随分とお前を頼ってるようだった。必要ないなんてことはないだろ」

「急な階段で掴まるところがあれば掴まるかもしれないけど、なければ自力で上るだろ。俺はそういうくらいのものだよ」


そうして、唯斗はかいつまんで今までのことを話した。

グランドオーダーの旅で必要だったのは、周りを巻き込んで前に進んでいく力。それは藤丸に備わった天賦の才で、唯斗にはなかったものだった。
それは人理修復後も同じで、異聞帯をめぐる旅でも変わらなかった。むしろ、藤丸とマシュにできることがどんどん増えていったことで、唯斗の必要性はさらに低下していた。


「そんで最近、カルデアの最も優れた魔術師のチームであるAチームの一人、カドックが目覚めた。カドックは魔術師として俺よりも経験豊富だし、面倒見もいい。俺は常に、いればベターってだけでいなくても同じ結果になってたし、カドックがいる今、もう俺がいる必要はない」

「…そうか。親に顧みられず、カルデアでも必要だったわけじゃなく、今も、自分のいる意味が薄れてる、って感じてるわけだな。確かに、お前と僕は似てる」

「新選組や御陵衛士として活躍してた藤堂さんとは、似てるというのはおこがましい感じだけど」

「いや、それこそ同じだろ。なんであれお前は藤丸と世界を救ったんだ。日ノ本はおろか数十人の集団すら守れなかった僕の方こそ、何も成し遂げられていない」

「…歴史好きとしてはそんなことない、って言いたいところだけど。そう思う藤堂さんの気持ちを否定することもできないな」


その回顧も後悔も藤堂のものだ。唯斗に否定できるものではない。


「そういうところは、僕よりもずっと大人びて見えるな」

「実際には、俺はずっと無気力な生き方してきたから、人間として必要なこと、まだ足りてない。こうして話してても、俺はこれでいいのかなとか、藤堂さんに不愉快な思いさせてねぇかなとか、そういうのはずっとある」

「そう自覚があるから、まっすぐ僕を見てくれてるんだろ」


誰も自分を見ていなかった、そう言った藤堂に言われ、思わず顔を上げる。そこには思ったよりもずっと近い距離に端正な顔立ちがあった。
つい、距離の近さとこちらを見つめる視線に、顔に熱が集中して目をそらしてしまう。


「…ふっ、確かに、こういうところはまだまだみたいだな」


からかうような口調で言いながら、藤堂は義手の指先で唯斗の前髪を少しだけかき分け、そのままそっと耳の淵を撫でる。ぞわりとしたものが首の後ろを駆けあがり、思わず声が出そうになるのをすんでで堪える。
さらに顔が熱く感じて、いったいどういう意図かと改めて藤堂の瞳を覗くと、藤堂は少しだけ目を見張った。


「っ、まだまだだけど、そういう顔はできるのか。悪質なヤツ」

「え、それどういう…」


まったく意図する意味が分からなかったが、藤堂は説明を拒むように唯斗をおもむろに抱き寄せた。
身長差も横並びに座っていれば気にならず、むしろ、唯斗を抱きしめる腕の筋肉質な太さと、顔を押し付けられた肩口の厚みに、小柄なだけで成熟した男だということを実感してしまう。
さらに、藤堂は距離がゼロになったのをいいことに、唯斗の耳元でささやく。


「今はまだ、分かろうとしない方がいいぞ」

「ッ、」


今度こそびくりと震えた。顔が見られなくてよかった、どんな表情をしているか自分でも分からない。
誰かとこんな距離になったことはなく、試されるように耳元で低くささやかれるのも初めてだ。ただ、分かろうとしない方がいいという忠告は、守らないとまずいと本能で理解した。



prev next
back
表紙に戻る