Fraternité−4
バーソロミューは唯斗に不正の数々をあげつらわれても気にしている様子はなかった。家に勘当されて行く当てもないというのに余裕なことだ。
空港を出てから1時間と少し、ようやく家に着くと、バーソロミューは建物を見上げて首をかしげる。
「ここに3人で暮らしているのかい?」
「あぁ。こっちは裏口で、この周りの住宅と同じような一軒家は別邸だ。この裏側に本邸がある」
「…なるほど。日本の家は狭いと聞いていたから驚いていなかったんだが、逆に驚いたな。そんなに広い豪邸に住んでいたんだね」
「絶えた家だけどな」
特に感慨もなく言うと、バーソロミューは少し動揺して反応に困っているようだった。
車を車庫に止めて別邸の玄関に入ると、すぐに2階から足音が下りてきた。
「おかえりなさい、唯斗さん。この方がミスター・ロバーツですね」
下りてきたギャラハッドとサンソンは、玄関で二人を出迎えた。今日は月曜日で、カフェの定休日だ。
「どうも、初めまして。僕はシャルル=アンリ・サンソンという。よろしく」
「ギャラハッド・ベンウィックと言います。よろしくお願いします」
「初めまして、私はバーソロミュー・ロバーツ。よろしく頼むよ」
こういう金持ち同士の社交は見慣れたものだったが、それが普通の日本の一般的な住宅の玄関で行われていることがシュールに見えてくる。
「この二人は別邸に寝室がある。俺とバーソロミューは本邸な」
「……後から来た人が唯斗さんと一緒というのは不満ですが、仕方ありませんね」
ギャラハッドは不満げにそう言ったが、この話をしたときはサンソンと揃ってもっといろいろ言ってきた。ずるいだのなんだの言っていたが、サンソンかギャラハッドと交換しようにもそれはそれで決着がつかなさそうだったのでこの形に収まった。
「あー…やはり私は歓迎されていないのかな?」
「いや、歓迎はしているよ。唯斗に手を出さない限りにおいてだけれど」
ギャラハッドと違い、サンソンはいくらかマシだ。しかしきっちりとけん制をしている。
もともと、アーサーの頼みと言えどこんなことを引き受けようという唯斗に二人は反対していた。しかし、アーサーにはギャラハッドのことで借りがある。
ギャラハッドの件ではアーサーはあくまでランスロットへのダメ押し役だったため釣り合わないのでは、というサンソンの指摘には、「このことでギャラハッドのことと差し引きこっちに貸し一つだ。なんかあったら最悪100万ポンドくらいゆすればいいだろ」と返した。結局一番あくどいことを言ったのは唯斗だった。
「…ほどほどにしとけよお前ら。バーソロミュー、本邸を案内するから着いてこい。あぁ、靴は脱ぐぞ、日本だからな」
「あ、あぁ、分かった」
一応スリッパはあるため、唯斗以外の二人はスリッパを履いているし、バーソロミューも倣った。サンソンたちは自室に戻り、唯斗は軽く別邸を案内してから渡り廊下に向かう。
「基本的にはこの別邸で飯とかは用意する。リビングはあれでも一般家庭より広いからな」
一般家庭よりも広いリビング・ダイニングには、大きめの6人掛けのテーブルがある。テレビと同じく6人掛けのL字型のソファーもあるし、この別邸だけでも平均よりは大きいのだ。
リビングを抜けて廊下に出ると、扉を開ける。すぐに、寒い空気が体に刺さった。
屋外の渡り廊下であり、ここから一気に和風建築となる。扉を開けてすぐ正面に廊下が伸びており、天井も床も木目である。壁は腰くらいまでは板で、そこから天井まではガラス窓となっている。窓からは中庭が見えた。カフェが面する前庭とは、庭園内の生垣と壁を通して隔たれており視界には入らない。
前庭は池や小ぶりの橋などがあるが、こちらは質素で、灯篭や鑓水があるくらいだ。それでも伝統的なものに見えたのか、バーソロミューはわくわくとした表情になる。
廊下はそのまま本邸の縁側に接続する。庭に面する縁側を少し歩けば、目当ての襖に着く。さすがに冬であるため、縁側の窓は閉め切っていた。