死が分かつまで−3
原田との一件から数日、唯斗は珍しく昼食で賑わう時間の食堂に来ていた。どうしても打ち合わせの都合上、昼休みが取れるのはこのタイミングだけだったのだ。
人混みが好きではなく、人と話すのも得意ではないため、唯斗はこの時間を普通は避けており、英霊たちの話声が満ちる空間に少し竦む。
それでも腹をくくって中に入り、いつも通り、サンドウィッチの軽食を頼んで隅の席につく。
「おや、こりゃ珍しいですねぇ」
「ロビンか」
そこにやってきたのはロビンだった。唯斗から数席離れた場所に座り、テーブルにはコーヒーだけが置かれている。どうやらもともとそこに座っており、トレーを片付けたあとコーヒーだけ取りに行っていたようだ。
「ちょっと時間の都合で、ここしかタイミングなかった。相変わらず騒がしいな」
「ピークは過ぎたみたいですよ、エリザベートたちがレクリエーションルームに行ったんで」
「廊下で鉢合わせなくてよかった」
「ほんとですねぇ」
ロビンは飄々とした性格のためか、騒ぎに加わるのも一人で静かにしているのも好きな様子だ。今日は一人でいたい日だったのだろう。こういうところは原田と似ているが、どちらかというと原田の方がアクティブな気がする。
その原田はというと、食堂の反対側でほかのランサーたちと盛り上がっていた。声がでかく騒いでいるのはクー・フーリンたちとディルムッド、弁慶といった者たちだが、原田も楽し気に会話に加わっていた。
さらに、その中心には立香がいる。クー・フーリンたちとは相性がいいらしく、立香の気質もあいまって、兄貴肌な彼らもよく面倒を見ているようだった。
唯斗の視線に気づき、ロビンもそちらをちらりと見てから苦笑する。
「相変わらずやかましいっすね、あいつら。うちのマスターが楽しそうで何よりですけど」
「…原田さんも、立香みたいなやつの方が良かっただろうにな」
「っ、唯斗さん…?」
つい口から出てきた言葉に、自分でハッとする。ロビンも目を丸くしていた。
「悪い、変なこと言った」
「別にいいですけど…俺からすりゃ、あんたら相性良さそうですけどねぇ」
「え…どこが?」
意外なことを言ったロビンに、立香が言っていたようなことだろうか、と思って聞いてみると、ロビンもコーヒーを一口飲んでから答える。
こちらを見やる瞳は、からかいはもちろん、軽い様子ではなかった。
「…死に無頓着なところ、とか?」
「っ、」
「あの槍の侍さん、ハラキリしても生きてたからあの宝具なんでしょ?でもそれだけじゃあない。ありゃ、生と死が等価値っつか、どちらも同じ地平線にあるような感じだ」
ロビンの言葉は、短い時間ではあったが端的で正確だった。判断力に長けた森の狩人だけある、原田の気質を正確に理解している。そして同時に、唯斗のこともある程度は分かっているようだった。
「俺ってそんな分かりやすいか」
「いや?よく隠せてるさ。ただ、自分にも似たようなことが思い当たる節がある人間には、唯斗さんのこと、よく理解できちまうんじゃないですかね」
原田のことは、ほかの英霊よりも分かりやすいと思っていた。それは、自分のサーヴァントだからか、原田がそう振る舞ってくれているからかだと考えていたのだが、どうやら少し違うらしい。
するとそこに、当の本人がいつの間にか騒ぎを抜けてこちらにやってきた。ぬっと現れて、唯斗の隣に断りもなく腰掛ける。テーブルに肘をつき、原田の精悍な顔によってロビンが見えにくくなった。
「俺を差し置いてよそのサーヴァントと昼飯っすか、つれないっすね」
「たまたまだろ」
「てかそれだけっすか?だから細いんすよ、もっと食わねぇと」
急に現れるなりそう言われ、いつものことなので適当にいなしていると、ロビンが立ち上がる。どこか呆れたようにしていた。
「じゃ、俺はこれで」
「あぁ」
「…何話してたんすか?」
ロビンが立ち去ったのを見届けてから、原田はそう問いかけてきた。こういう風に唯斗に関心を示したのは初めてだったため、唯斗は珍しいな、と少し驚く。
「ただの世間話」
「…そっすか」
またも、原田は読めない目でじっとこちらを見つめる。納得したように見せているが、言葉通りには受け取っていない。実際にそうであるためばつが悪い。
先ほどは分かりやすいと思ったが、最近は少し違う。こういうとき、原田が何を考えているのか分からなかった。