死が分かつまで−4
第五特異点の探索が始まった。
広大な北米大陸を駆け抜ける強行軍となり、東西戦争の中で各地にいるはぐれサーヴァントを仲間にしながら前進。
そして立香はラーマの回復のためサンフランシスコ方面へ、唯斗はケルト軍の首魁を叩くためワシントン方面へと別れて進んだ。
しかしワシントンではクー・フーリン・オルタとアルジュナ、メイヴと会敵し、その圧倒的強さに敗走、唯斗と原田、現地のロビンととともに中西部を目指してとにかく急いでいた。
「ロマニ、アルジュナたちの接近状況は!?」
『君たちの後方10キロ地点!オハイオ川で追いつかれる!』
現在、唯斗たちはオハイオ州西部に差し掛かっており、前方にはシンシナティ、オハイオ州とケンタッキー州、インディアナ州がオハイオ川付近で接する地点に近づいていた。
この時代、まだシンシナティの都市は入植が始まっていないため、延々と緑の大地が続いている。唯斗は走るのをやめ、後ろを振り返った。
「どのみちこの見晴らしじゃ、距離があっても意味ないな。迎え撃つ。接近はアルジュナ単体だろ?」
『うん、クー・フーリンたちはまだ後方にいるけど、戦闘中に追いつかれることになる』
「それまでにアルジュナを動けなくするわけか。原田さん、」
唯斗は原田を見上げる。夜空の下、月明かりに照らされた精悍な顔は、やはりじっとこちらを見つめていた。
それに臆さず、唯斗はひとつ深呼吸してから言葉を続ける。
「まだ、死ねない。この状況で立香を一人にできない。いけるか」
「当然。あんたはまだ、死なない」
原田がその大槍を勢いよく振るい地面に突き立てたところに、アルジュナが到達した。滞空してこちらを睥睨し、ロビンも迎撃態勢になる。
「ここまでです。人間のマスター、あなたの命までは取りません。あなただけでもここを立ち去りなさい」
「今ここであなたに背を向けるのは、インド5000年の歴史に背を向けるのと同じだ。不遜を承知で、あなたに向き合わせてもらう」
「…そうですか」
アルジュナは王子であり戦士、市井の者に過ぎない唯斗にこう言われてしまえばやりづらそうにしていたが、次にゆっくりと目を開いたときにはそんな葛藤はなくなっていた。今、完全に戦う者として意識を切り替えた。
「いけ!」
「っす!!」
唯斗は原田に瞬間的に強化をかけ、原田は目にもとまらぬ速さで飛び出した。その槍をまっすぐ突き出し、アルジュナは瞬時に矢を放つが、唯斗の結界がそれを弾きすぐに消える。
なんだかんだ4つ目の特異点だ、原田との連携はほとんど言葉を使わずに可能である。こういうときには互いにこう動く、というのが染みついていた。
原田は槍らしい直線的な突きをアルジュナに見舞おうとするが、アルジュナはそれをすぐに避ける。だが、直後に原田の槍は4つに分割され、まるでヌンチャクのように鎖でつながれたまま、鞭のようにしなる。
アルジュナは軽く驚きこそしたが、すぐに矢を放って軌道を変え、体をひねって躱す。この対応力はさすがだが、さらに原田は槍を再び元の状態に戻すなり、足で柄を蹴るようにして軌道を調整し一気に向きを変える。
対空能力があるわけではないため、原田は落下しながらこれらの動作をしており、アルジュナが一緒に高度を下げるように、鎖の動きでアルジュナを下方へ誘導していた。
「なッ、」
「うらぁッ!!」
勢いよく原田の槍がもはやバットか何かのようにアルジュナを殴打し、アルジュナは地面に叩きつけられる。即座に原田も落下し、アルジュナに着地しながら槍を突き立てた。
加えて、唯斗はさきほどから数百枚にわたってアルジュナたちの頭上に展開していた無数の結界を、上空からアルジュナに向けて一気に落下させた。落下というよりも射出に近い瞬間的なそれは、まるで鋼鉄の鉄板が空気抵抗を無視して地面に叩きつけられるようなもの。
アルジュナにダメージが入るようなものではないが、アルジュナはそれを防ぐために弓で支えた。完全に地面に縫い留められるのを防ぐためであり、アルジュナは弓で押しつぶそうとする結界を支えながらも矢を弾いた。
それはまっすぐ唯斗を狙うも、ロビンの矢がそれを弾き飛ばす。
「令呪をもって命じる、宝具解放!」
そこでただちに唯斗が令呪を発動することで、原田は宝具を解放する。刀で自身の腹を横に搔っ捌くと、血液の代わりに魔力が噴き出した。
「ここが死損ね左之助の花道だ…!邪魔する奴は生き損ねるぞ!」
「なにを…っ!?」
自分の腹を切り裂いた原田にアルジュナは今度こそ驚愕する。依然として唯斗の結界天井によって動けない。すでに数百枚あった結界は数枚にまで減らされ、あと数秒でアルジュナはその場を離脱できるだろうが、もうすでに原田の間合いに入っていた。
「死損ね一文字ィッ!!!」
アルジュナはすかさず残りの結界を破壊し、避けられないと判断するや魔力の矢を次々と放つ。原田も避けられない間合いだが、原田は避けなかった。
その矢は原田の肩を、腕を、脇腹を、足を抉るように掠めるが、いずれも掠めただけだった。これはクー・フーリンの槍のような因果をも狂わせるほどの宝具ではない、単なる確率操作。すべての攻撃が原田の致命傷を避けるのだ。
そして原田の槍がアルジュナを切り裂き、腹を突き刺した。アルジュナは呻きながら、巨大な槍に振り回され、地面に引き倒される。
もろに入れられたが、この一発では倒しきれない。相手の神秘が強すぎるのだ。
原田もそれを理解して唯斗の近くに飛んできたが、ぐらりと揺れる。いくら致命傷を避けるといってもアルジュナの全力の矢だ、人の英霊が受けていいものではない。
何発かは即死級だったようで、原田のダメージも深刻だった。
さらにそこに、クー・フーリン・オルタとメイヴまでもが到着した。アルジュナは立ち上がり、自身を回復させながらこちらに矢をつがえる。
ロビンは唯斗を庇うように立ち、原田は槍を支えにかろうじて立っている。唯斗は急いで原田に治癒術式を使用しているものの、こちらを睨むクー・フーリン・オルタたちの殺気に、いよいよ厳しい状況だと歯噛みする。
原田は宝具を展開している限り死なない。どんな攻撃でも致命傷にならないため、負傷前提で無理やり相手の間合いに入り、その攻撃を届かせる。
逆に言えば、宝具解放後は危険な状態だ。追撃されればまずい負傷である。
残る令呪二画で宝具2回を打てるが、一発でアルジュナを倒しきれなかった以上、ロビンの宝具をもってしても3騎のサーヴァントを倒すことはできない。
「そこまでだ坊主。逃げりゃよかったものを、ここで死んでいきな」
クー・フーリン・オルタは無感動にそう述べると、赤黒い槍を取り出す。クラスはバーサーカーで異形の姿をしているが、それでももとはクー・フーリンだ。
それに対して、原田はオルタを睨みつけた。
「マスターは俺が死なせねぇ…ッ!」
「じゃあ揃って死にな」