死が分かつまで−5
オルタはその直後、二人の目の前に現れていた。まったく残像すら見えない速さだ。しかし原田は追いついており、すでに迎撃モーションに入っている。
分割された槍の鎖がオルタの槍を絡めとり、その隙に思い切りオルタの腹を蹴とばす。それと同時に、先ほど抉られた傷口から大量の血潮が草地に飛び散った。
オルタは飛ばされ、元居た位置まで後退する。
唯斗は即座に、オルタたちのいる地面を地中数メートルにわたって転移させ、落下する彼らのすぐ頭上に出現させた。その一瞬の隙によって唯斗は強固な結界を展開する。
ロビン、原田とともに結界に覆われると、唯斗は原田にさらに強力な治癒術式をかける。
「マスター、俺が殿で足止めします。その隙に、その弓兵の姿隠すマントで逃げてください」
「あれは獣に近い、姿を隠すだけじゃ捕捉される」
そこに、唯斗の結界を破ろうとオルタの槍が突き立てられた。唯斗が出せる結界の中でも最上位のものだが、たった一撃でひびが入っていた。
「倒しきれなくても、二人の宝具を立て続けにオルタにぶち込めれば、ギリギリ逃げ切れるくらいの時間は稼げるはずだ」
「なっ、危険すぎます、マスターがそんな危険を冒す必要はねぇっすよ!!」
原田は珍しく焦っているが、唯斗は不思議と落ち着いていた。死が今まで最も身近にあるからだろう。いや、父に殺されかけたときの方が危険だったため、一番ではない。
唯斗は亀裂が入って崩壊し始めた結界の中、槍を支えにしているため距離が近い原田の顔に手を触れる。頬を挟むようにして、視線をこちらに向けさせた。
こちらの考えていることを見抜くようなその鋭い瞳に、ずっと、どこか恐怖を感じていた。だが今は、唯斗の方が強い意志を持っているだろう。
「原田左之助」
「っ、はい」
「これは俺たちの戦いだ。俺のでも、お前のでもない。人類の歩んだ道を否定させないための、人としての俺たちの聖杯戦争だ。俺は逃げないし、ここでは死なない」
回復はある程度なんとかなった、ロビンも準備してくれていのだろう、宝具の解放は可能そうに見える。結界はあと10秒も保たないが、打撃が続くためオルタがどこにいるかは容易に分かった。
原田も覚悟を決めたのか、槍を地面から引き抜き臨戦態勢になる。
「…分かりました、マスター。力、貸してください」
「俺のセリフだ。ロビンもいいな」
「ここまでくりゃ、もうどうにでもなれってね」
相変わらずのロビンに苦笑する。そして、唯斗は再び令呪に魔力を込めた。
「令呪をもって命じる!死に損ねろ!!」
「承った!!うおらぁぁあああッ!!!」
原田は魔力を漲らせながら腹を切り裂き、宝具を解放する。そして、結界ごとオルタを槍で薙ぎ払った。オルタからはこちらが見えていないだけでなく、結界の魔力によって認識もできていない。
完全に不意を突くものであり、さらにあえてオルタの槍を受けながら攻撃してくる捨て身のそれはさらに常識外のものだった。
オルタは目を見開き、原田によって胸元を切り裂かれる。原田もオルタの槍によって右足を抉られていた。
「ロビン!!」
「あいよ!!」
さらに続けてロビンも宝具を解放する。原田越しのそれは、本来なら原田に当たりかねない位置だったが、原田が避けただけでなく宝具の力もあって、これも常識ではありえない軌道でオルタに到達する。
途端に、オルタを閉じ込めるように大樹が生え、爆散した。その爆風を借りて距離を取り、原田とロビンとともに走り出す。すでに原田は連続しての宝具使用とオルタの攻撃によって息も絶え絶えだった。
足に強化をかけて全速力で走っているが、まだ背後には強大な気配がある。やはり逃げ切れないか、と拳を握りしめたそのとき、三人とすれ違うように、どこからともなく美しい女性が現れた。
「よく戦った。おぬしの言葉、しかと聞いておったぞ」
「え…っ、」
「ゆけ。あれらは私が灸をすえる」
のちにスカサハと分かることになるサーヴァントとはそこで一度離れ、三人はイリノイ州に入ってさらに西へと進む。有言実行であり、本当にオルタたちは追ってこなかった。
ひとしきりロマニに状況を報告したのち、追手がないことをカルデアでも観測してもらってから、一度体を休めることにした。
立香たちはアルカトラズでの戦いに臨むため、カルデアは一時的にすべてのサポートを立香に回す。
そのため、唯斗たちの方は存在証明のみ行っており、音声と映像についてはモニタリングせず、唯斗から通信を開いたときのみつながるようになっていた。
岩陰に隠れ、ロビンは哨戒のため周囲を回り、原田と唯斗の二人となる。
原田を岩に凭れるように座らせると、原田の長い脚の間に膝をおろし、体のあちこちにできた傷に手をかざしてオルタに食らった怪我を治癒術式で回復していく。宝具で腹を切り裂くとき、あれは痛みこそあるが概念的なものであることから、宝具解放後には傷はなくなる。そのため、腹の治療は必要ないものの、アルジュナに負わされた傷の治りきっていない部分と、オルタに攻撃された部分を治療しなければならない。