死が分かつまで−8
無事に第五特異点を踏破し、カルデアに帰還した。
しばらくは筋肉痛で動けず、加えてマシュも倒れてしまったあとだったため、しばらくは唯斗も立香も休養期間となる。
立香の方が、体の疲労やマシュへの心配もあって不調であったため、唯斗が先に復帰となった。
復帰日として指定していた日の朝、インターホンが鳴らされ、唯斗が解錠して扉がスライドする。現れたのは原田だった。
「マスター、体調はどうっすか」
「問題ない。復帰っていっても、しばらくレイシフトの予定もないから、訓練とかを再開できるってだけだけどな」
「無理は禁物っすよ。これから朝飯ですよね、一緒に行きましょう」
「え、あぁ、分かった」
様子を見に来ただけだと思っていたが、どうやら朝食を共にするためにやってきたらしい。
なんだかんだ、まともに会話するのは帰還してから初めてだ。帰還から昨日までずっと医務室にいたし、第五特異点のレポート作業もあった。
廊下を連れ立って歩きだしながら、あのときのことを思いだす。
アルジュナたちから逃げおおせた夜、原田には人理修復後も一緒にいるなどという突拍子もないことを言われた。魔術王による聖杯をもってすれば受肉くらいは可能だろうが、いまいち唯斗にとっては、原田が本気だったのかどうか分からなかった。
いかんせん、この男は常に泰然自若としており、真顔で冗談を言うタイプのため、どこまでが本心なのか分かりかねていた。
ただ、こうやって一緒に食事を、というのは初めてのことだった。距離が縮まった、あるいは原田から縮めようとしているのは確かだ。
少しして食堂に到着し、メニューを選ぶ。朝ということもあって、利用者はほとんどが人間のスタッフであり、サーヴァントの姿は多くない。落ち着いた静かな時間だった。
「決まりました?」
「んー…パンケーキにしよっかな」
「飲み物はコーヒーっすか?」
「そうするつもりだけど…」
なぜ聞くのだろうと思っていると、原田は頷いてカウンターの方へ向かう。
「マスターは座っててください」
「え、わかった、ありがと…」
どうやら唯斗の分まで注文して持ってきてくれるつもりだったようだ。それくらい自分で、と言おうとしたが、原田が有無を言わせない様子だったのと、すでにカウンターに向かっていたのもあって、唯斗はおとなしく、いつもの端の方の席に向かう。
5分ほどで原田がトレーを二つもって現れた。唯斗の正面に座り、唯斗の前にパンケーキを、自分の前にはカレーを置いている。朝からカレーライスとは。
コーヒーだけでなく、セルフの水もトレーには載っていた。
「悪い、水くらい自分で取ってくればよかったよな」
「世話焼かれ慣れてねぇのかわいいんで、大丈夫っす」
「どういうことだよ…」
確かにこうやって人にやってもらうことなどなく、急に人にやられると、普段なら気づくようなことも気づけず、ただ椅子に座って待ってしまっていた。あらかじめセルフの水を用意しておけば原田もまっすぐこちらに来られたはずだ。
しかし原田は、なぜかそんなところを「かわいい」などとのたまった。
「今にして思えば、帰還後の世話も俺がやればよかったな。しくった。そうすりゃ、風呂も着替えもトイレも俺がやれたのに」
「は…、」
「じゃ、いただきます」
朝で頭が回っていなければ叫んでいた。いったいこいつは何を言い出しているのか。そしてやはり何事もなかったかのようにスプーンでカレーを掬っている。
「…霊基異常とか、なかったか」
「?なにも。至って正常っす」
ということは素面でこれだ。いったいなんだと言わんばかりにきょとんとしている。
唯斗もパンケーキを食べ始めると、原田は先ほど爆弾発言あったとは信じられないほど穏やかに尋ねてきた。
「好きな食いもんって何っすか。俺は最近カレーにハマってます」
「好きな食べ物…や、特にない。食事は必要だからとってただけ、みたいな生活だったし。好きも嫌いもないな」
「俺も酒以外は特にって感じだったんで。ここは飯がうまいからいいっすね。自分で料理とかもしなかったんすか?」
「あぁ、コンビニやスーパーの出来合いのものだけだったな。インスタントとか、うどん茹でるだけとか、そういうレベル」
「なるほど。じゃ、飯は俺がやればいいか」
「…ん?」
至って普通の会話で、しいて言えば出会ってからそれなりに時間が経つのに今更こんな会話をしているのが遅いというくらいだが、最後に何やらまだ変なことを言い出した。
本当に脈絡がなく、何がいいのかも分からない。掘り下げるのが怖くて、唯斗は聞かなったことにした。