Fraternité−5



「この部屋がお前が寝泊まりする部屋な。まぁ、自室と思ってくれていい」

「分かった…しかし、鍵はかけられないのかい?」

「襖だしな。意外と防音だから音は気にしなくていいぞ。でも女は連れ込むなよ」

「ふむ、プライベートはないのか…今どき監獄でもあるというのに」

「誰もお前のプライベートなんざ興味ねぇよ」


つい口も悪く言うと、バーソロミューは目をぱちぱちとさせてから苦笑した。


「なんだ、案外口が悪いのだね君は」

「金持ちだが育ちはあんま良くねぇしな。それにしても、お前を預かれとアーサーに言われてはいるけど、ここにいる間どうすんの。就職でもするのか?」

「ビザの問題はないけれど、特に予定はないね。まぁ、気長に考えるさ」

「それはいいが、働かざる者食うべからず、ただ飯食わすほど優しくないからな」


バーソロミューは畳の部屋に胡坐をかいて座り、殺風景な何もない部屋を見渡す。衣装棚など家具は揃っているが何も入っていない。
襖の柱に寄りかかって聞けば、バーソロミューは胡坐をかいたままこちらを見上げる。


「私に君のカフェで働けと言うのかい?私は生粋の貴族階級だ、悪いが一般人に傅くのは御免だし、キッチン周りも私がやるようなことではないだろう。ここがパリならまだしも、東京なのだしね」

「……実際にその仕事をしている人間を前に言うことか?それに、アジア人相手に下出に出る趣味はないと」

「そういう解釈がお好みならそれで良いのではないかね」


どうやら生粋の英国貴族は、黄色人種相手に接客などできないらしい。今すぐアーサーに突き返してやろうかとも思ったが、引き受けた以上はもう少し面倒を見てやるべきだろう。いずれにせよこの男の生殺与奪はこちらにあり、出て行きたいのなら止める理由もないのだ。


「…俺は基本、カフェ周りのことをやってる。こっちの家事はギャラハッドとサンソンが分担してるからあいつらに聞け。不満があったらいつでも出て行っていいからな」

「なんだ、誰も歓迎はしていないわけだ」

「歓迎される人間になって出直すんだな。ただ、評価はいつでも変えてやる」


呆れて言えば、バーソロミューは楽し気に笑った。「お人好しだな」と呟かれた言葉には、僅かに影が見えた。




翌日、バーソロミューは「朝食です」とギャラハッドに叩き起こされ、別邸のリビングで朝食を取った。普通の洋食だったが、サンソンと唯斗の姿が見えず、ギャラハッドが言うにはすでにカフェに入っているらしい。

そのため、早速今日からたった二人の食事という些かハードルの高い状況になってしまった。昨日は時差ボケで早々に寝てしまったため、夕食は共にしていないのだ。


「ええと、ギャラハッド君」

「なんでしょう」

「こんなことをいきなり言うのもあれなんだが…」


どうしてもバーソロミューが言いたかったことだった。正面に座ってサラダにフォークを通すギャラハッドに、一日越しの言葉を口にする。


「君はいいメカクレだね!」

「……は?」

「その前髪に隠された左目…秘匿性…実に素晴らしい!理想的だとも!」

「………朝から元気ですね」

「メカクレを見ると元気になってしまうんだよ。君がもう少し中性的だったら息子も元気になっているところだったが、君は男らしすぎるからね」

「許してやるのはこの1度だけだ、次に気持ちの悪い発言をしてみろ、嫌いな父親でもなんでも使って貴様を英国に送り返してやる」


淡々と荒々しい言葉で脅してきたギャラハッドに、さすがにバーソロミューは黙る。
バーソロミューの性癖、それは前髪で目が隠れている様だ。左目が隠れたギャラハッドを見て理想的だと思ったバーソロミューだったが、体格のいいギャラハッド相手にはなんともならない。


「ふむ。唯斗がメカクレだったらあるいは…」

「なるほど、そんなに帰りたかったか」

「おっと、他の人が対象でもダメか。いや、分かった、分かったとも!…それにしても君は、随分と彼…唯斗に特別な感情を向けているようだね。理由を聞いても?」

「あなたに教えることはありません。僕は大学に行きます、自分の分は自分で片付けておくように」


ギャラハッドはすげなくそう返すと、食事を早々に終えて席を立った。10歳は離れていないであろう相手だが、大人びた様子はとても学生には見えない。
そんな彼が唯斗に対して並々ならぬ感情を向けている理由が、バーソロミューは気になった。



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