死が分かつまで−10
相変わらず抑揚の乏しい淡々とした口調だったが、それでも、普段よりもずっと感情が滲んでいた。唯斗でも分かるくらい、明らかに「愛しい」と思ってくれている。
「…俺といても、楽しくないだろ」
「楽しいっすよ。大将にやってる歴史や社会の解説、聞いてて面白いし。何より俺は、あんたの笑顔とか、幸せそうなとこが見たいんです。だから、そのチャンス逃したくねぇんで、ずっとそばにいるっす」
ようやくすべてに合点がいった。原田は本当に、唯斗のそばにいたいと、幸せにしたいと思ってくれている。だからこそ一緒にいようとしていたし、こうして触れている。
恐る恐る背中に手をまわし、鎖骨あたりに顔を埋める。まだ口にするのが怖かったが、それでも、黙っていたくもなかった。
「……信じていい?」
「信じてください。そんで、これからも言動で信じさせるっす。いやってくらい」
間髪入れずにそう言ってくれたため、唯斗はようやく、アメリカでの出来事から今に至るまでの原田の言葉をすべて信じて、心を預ける決意を固めた。
きっとこの男は本当に受肉なりなんなりして、唯斗とともに生きることを選ぶだろう。
「分かった。じゃあさ、手始めに…その…名前で呼んでほしい…」
「もちろんっす。唯斗さん」
「…左之助、」
なんとなく、さん付けは嫌がりそうだと名前を呼び捨てにしてみると、原田は嬉しそうに微笑んだ。間近で見るには破壊力のある美丈夫の笑顔についこちらも顔に熱が上がる。
それを見て、原田は腰を屈めて顔を近づけてきた。今度のそれは意味が違うことを、きちんと唯斗も理解していた。これを受け入れることが、キスを受け入れるだけを意味しないことも。
触れるだけのキスはだんだん深くなり、そして舌がゆっくり割り込まれる。アメリカでのそれよりずっと優しく、丁寧に唯斗の舌を絡めとる。ぬるりとした感触に体が震えると、なだめるように背中を撫でられる。
さらに上あごを舌でなぞられると、背筋を這うような快感が駆け上がる。前回もそうだったが、そこは感じるポイントであるらしい。
口が離れると、頬を撫でられる。
「かーわい…優しくするんで、先、いいっすか」
「ん…俺、こういうのほんと初めてだから」
「そういう可愛いやつ、我慢できなくなるんで控えめで頼むっす。俺、少なくとも今日は甘やかしたいんで」
そうではない日もあり得るということだろうか。それはそれで気になるところだが、それを口にするのはまずそうであるため、とりあえず頷いておいた。
「いい子っすね」と頭を撫でられたあと、原田にそっと促され、ベッドに腰かける。そのままシーツの上にゆっくり押し倒され、長躯に覆いかぶさられる。
原田は唯斗のシャツをめくり上半身を晒すと、胸元にキスを落としてから、乳首を口に含む。そんなところを刺激されるのは初めてで、びくりと体が震えた。
舌で転がされるようにして弄られ、反対側も指で捏ねられ、初めての快感でつい原田の厚い肩に手を添える。
「んッ、な、んで、そんな、とこ、っ、」
「唯斗さんの感じてる顔ずっと見てられるっすね…」
会話になっていない。ひとしきり胸元を弄ったあと、腹筋にキスを落として少しずつ体を下げていき、ジャージ越しに立ち上がる唯斗のものを撫でる。
そして、ジャージを下着ごとずりおろすと、それをぱくりと口に入れた。生暖かい咥内に敏感なところが含まれ、強すぎる刺激に背中がのけぞる。
「あッ、ちょ、きたねぇ、からぁっ!んっ」
原田は一切気にしていない。達しそうになり、慌てて肩を叩くと、察したのかようやく原田は口を離す。改めて、そういうことをしているのだと実感されて、もう唯斗の顔は真っ赤になっていることだろう。
それを見て微笑みつつ、原田は何も言わずに腰のベルトから何かを取り出した。どうやらローションのようで、同時に上体の霊衣を消失させる。
体のラインに沿うような黒い霊衣であったため、筋骨隆々とした体であることは分かっていたが、いざこうして肌が晒されると、その肉体にドキリとする。やはり腹筋には横一文字に傷跡があった。
その傷跡をついなぞると、原田はさらに笑みを濃くする。
「我ながらすごいっすよね、これ」
「ん…かっけぇ」
「はは、そっすか」
原田は小さく笑うと、唯斗の右側に肘をついて横になる。そして、一度唯斗を抱きしめた。腕枕される形になり、素肌が直接触れ合う。
その温もりに、知らず緊張していたものが弛緩した。
「痛くしねぇようにするんで」
「痛くてもいい。一緒になれる方が嬉しい」
首筋にすり寄ってそう言うと、原田は息を詰める。そしてローションのふたを片手で器用に挙げながら、息を吐きつつ答えた。
「あークソ、ほんとかわいいな…余裕吹っ飛びそうなんで、慣らしますね」
そう言って、ローションが後ろを濡らす。マッサージをするように、指で穴の淵をなぞられ、ぞわぞわと感じたことのない感触が這い上がる。
最初はただなぞるだけ、だんだん指圧が強まっていき、次第に感覚が薄れ、少しずつ穴の中に指が入り込んでいく。
ちょくちょくローションを足しながら、だんだんと指が一歩、第一関節分、第二関節分と、深くなっていく。
初めてだからだろう、15分しっかりと解され、指が2本出入りするようになったあたりで、原田は起き上がった。
「痛くないっすか。気持ち悪いとか」
「と、くには…へんな感じすっけど…」
「多分、快感に変わる前の感触です。それを意識してください」