Fraternité−6


バーソロミューは悪戦苦闘しながら皿を洗って片付けると、早速自室で暇になってしまった。特に何もできないし、スマートフォンを家のWi-Fiに繋いでネットを見ても何か面白いものがあるわけではない。

迂闊に街に出て迷子になるのは避けたかったため、今日はダラダラとするしかないか、と諦めようとしていたときだった。


「おや、随分と暇そうだね」

「サンソンか。カフェの方はいいのかね?」

「平日の朝一は人が多くない、唯斗一人で回る。オープンの処理は終わったから、この間に洗濯を済ませるつもりだよ。君はどうする?暇なら手伝うかい?」

「そうだな、うん、そうしよう。家事などこの私のすることではないとも思っていたが、それよりも苦痛なことがあるとできる気がするよ」

「それは良かった。これで断られていたら医学的に最も痛みを感じる場所にピンポイントで物理的ダメージを与えるところだった」

「そういえば君は医者だったね。最も敵に回してはいけない人だ」


バーソロミューはそう言って笑うと、立ち上がってサンソンについていく。別邸に入って洗濯物を洗濯機から取り出したサンソンは、その籠をバーソロミューに押し付けた。

それを持ってサンソンとともに中庭に縁側から出ると、外の寒さが身に染みる。高く抜けるような青空は真冬らしいもので、基本的に曇っている故郷とは違う乾いた空だった。

庭の物干し竿に洗濯物を干していく作業を手伝いながら、バーソロミューはサンソンにも聞いてみようと口を開く。


「ひとつ聞いてもいいかな?」

「何か分からないことでも?」

「あぁ。君は、なぜ唯斗にそうも強い感情を向けているんだい?」

「…それは唯斗を蔑視しての質問だろうか。それとも、単なる好奇心?」


サンソンは警戒の滲んだ声で言った。張り詰めた声がシーツ越しに聞こえてきて、すっかり警戒されてしまっているとバーソロミューは肩を竦めた。ギャラハッドもそうだが、唯斗を絶対に守ろうという強い決意を感じる。


「ただの好奇心さ。性別のことはどうでもいい。きっかけというか、馴れ初めというか。いくら3人ともフランスに縁があると言っても、東京で一緒に暮らすほどとは少し驚いてね」


これは本当だ。唯斗の魅力は、僅かにしか関わっていないバーソロミューでもある程度感じ取れた。サバサバとして乾いた距離の取り方と、淡々と事実を見つめ口にする言動は信頼できるもので、その端麗な顔が呆れたり笑ったりして動く様を見ると、特別に気を許してもらっているような、そんな気持ちになるのだ。
恐らく、サンソンもギャラハッドも、何か「ハマる」出来事があったのだろう。


「それを聞いてどうする。あなたはいつまでここにいるかも分からない。ペンドラゴンCEOの頼みを聞いただけなのに、唯斗に対してあなたができることは特にないだろう。ただの荷物でしかないあなたを迎え入れた唯斗に対して、礼を失する人間に、何を話すことがあると」

「…また、随分と嫌われてしまったようだね」

「嫌うほどあなたに興味はない。だからあなたも僕に興味を持ってもらわずとも結構だ」


どうやらバーソロミューの言動の端々から、サンソンとギャラハッドは唯斗に害のある人間だと判断したようだ。
サンソンの言う通り、バーソロミューが唯斗に対してできることなどない。何かをしてあげようと思ってここに来ていないのもまた確かだった。

バーソロミューが過去に犯罪行為に手を染めていたこともきっと彼らは知っていて、潔白そうな彼らはそういうところもお気に召さないはずだ。


「…そうか。分かったよ。諦めよう。これは私にとって島流しというやつだからね。罰と思って受け止めるよ」

「……とことん、礼を失するのが得意なようだ」


サンソンはシーツの合間から、鋭い視線をこちらに向けた。その眼光に籠る敵意に、肩が跳ねそうになるのを堪えた。
日本を流刑地のように言って、受け入れてくれた唯斗たちの家での生活を罰とみなしているかのような言葉は、サンソンの機嫌を損ねるには十分だった。

これはギャラハッドにもサンソンにも、完全に嫌われてしまったことだろう。



prev next
back
表紙に戻る