Fraternité−7
その夜、夕食や寝る支度を済ませ、唯斗とバーソロミューは本邸の自室に戻っていた。隣の部屋にいるはずの唯斗だったが、物音が聞こえてきた試しがない。本当に存在しているのだろうか、という謎の不安に駆られたバーソロミューは、縁側に出てから隣の部屋の襖越しに中に声をかける。
「唯斗、いるかい」
「ん?どうした?」
中から唯斗が襖を開く。こんな和風の家に暮らしているわりに、唯斗の家の中での服装は普通のシャツとズボンだ。バーソロミューも近くの大きな公園を挟んで反対側に広がる繁華街で一通り服を揃えているが、黒いシャツとジーンズというようなラフな洋服だ。
「物音がしないから生きているか心配になってね」
「だから防音だっつっただろ」
唯斗はおかしかったのか、くすくすと小さく笑う。アーサーやランスロットから、普段はクールだが表情が崩れると途端に可愛らしいという、とても男性に対する評価ではない話を聞いていたが、本当にその通りだとバーソロミューは感心した。
「…少しここにいても?」
「別にいいけど…俺はもう着替えて寝るからな」
バーソロミューは襖を閉めて室内に入る。畳に腰掛けると、唯斗は布団の上で寝間着らしいスウェットとTシャツに着替え始めた。電灯に晒された上体はしなやかで無駄がなく、油断すると体が弛み始める20代後半に差し掛かっているとは思えない綺麗なものだった。朝はランニングに行っているとも聞いている。
ふと、あの二人は唯斗の「味」を知っているのだろうか、と気になった。
あれだけの感情を向けて一つ屋根の下にいながら、手を出していないことなどあるのだろうか、と。
思うが速いが、バーソロミューはTシャツを取ろうと体を伸ばした唯斗の腰をするりと撫でた。
「ッ、な、にしてんだ」
声が一瞬裏返った。バッと振り返った唯斗に睨まれるが、バーソロミューは手を離さない。
さらにそのまま、手を上に滑らせていき、胸元を撫でた。抵抗しようにも、布団に胡坐をかいていた唯斗を後ろから抱き締めるように体勢を変えていたため、逃げられないだろう。
胸の先を引っ掻くように爪で弾くと、「ぁっ、」と小さく声が漏れる。その吐息交じりの声と、潤んだ瞳が睨んでくる姿に、バーソロミューは一瞬で欲情した。
男を知っているかは分からない。だがそれはともかく、一連の事件で完全に女日照りだったバーソロミューには刺激が強かった。
「…彼らとこういう経験はしたのかな?」
「は……?」
唯斗の体を背後から抱きしめて耳元で囁く。びくりと震えた肩に、耳が弱いのだと理解する。身長差から、完全に抱き込まれてしまっている様子が、なんだか加虐心を擽らせた。
「ギャラハッドとサンソンに、なぜそんなに唯斗のことが好きなのか聞いたんだが、答えてくれなくてね。だから、こちらの具合が良かったんだろうか、なんて」
「…お前、それ、本気か」
すっと唯斗の纏う空気が変わる。
こちらを見つめる目線は、睨んでいるようではなかった。ただ、こちらを温度なく見つめている。それはどんな眼光よりも恐ろしかった。
「あー…だってほら、一つ屋根の下にいて手を出していないなんてことあるかい…?」
「…ッ、ふざけるのも大概にしろ!!!」
そしてついに、唯斗が怒鳴った。そんな声が出るのか、という怒声に、ついバーソロミューは体を離す。唯斗は立ち上がり、上から思い切りバーソロミューを睨みつけた。いや、睥睨した。その威圧感に、バーソロミューも口をつぐむ。
唯斗は落ち着こうとしているのか、ひとつ深呼吸する。そこに、廊下を走ってくる音が聞こえてきて、襖が開かれた。
「唯斗!どうかし…た…何をしていたんだ、バーソロミュー」
「唯斗さん?!」
駆けつけてきたのはやはりというかサンソンとギャラハッドで、サンソンは冷え切った声でバーソロミューに尋ねた。3人に見下ろされ、さすがに分が悪いと思ったが、それよりも正面で仁王立ちしている唯斗が一番恐ろしい。
ギャラハッドはすぐに唯斗のところに駆け寄ると、着ていた上着のパーカーを晒された唯斗の肩にかける。しれっとそのまま肩を抱いたギャラハッドは、唯斗とともにバーソロミューを睨んだ。
しかし唯斗は落ち着いたのか、一度瞬きをするとすでに怒りは見えなくなっていた。アンガーマネジメントに長けているようだ。
「俺のことはどうでもいい。だけど、この二人に対する侮蔑は許さない」
凛とした言葉に、サンソンとギャラハッドは驚いたように唯斗を見た。同時に、唯斗の怒りの理由を知って、二人も怒りを鎮める。代わりに怒ってくれたのだと理解したからだ。