Fraternité−8


静まりかえった和室で次に口を開いたのはサンソンだった。
ギャラハッドのパーカーに唯斗が袖を通して適当に前を閉めるのを見ながら、大きなそのパーカーに隠された肌にバーソロミューがしようとしていたことを追及するためだ。


「で、何をしようとしていたんだ、バーソロミュー」

「…君たちがこんなにも唯斗に執着する理由は体にあるのか、と。あくまでからかっていただけだったが、そうだね、出て行けと言われても仕方のないことをした」


本当に二人がそんな理由で唯斗にこんな感情を向けるようになったとは思っていない。欲だけで説明できるような感情の強さではなかった。
それを聞いてサンソンとギャラハッドが殺気立つが、唯斗は低く言った。


「こいつらはお前みたいな犯罪者とは違う」

「っ、そう、だね、うん、そうだ…私は、犯罪者風情だ、理解を求めるのはお門違いだね…」


ストレートな言葉は、バーソロミューの心臓を貫く。犯罪者、その通りで、バーソロミューが行った不正は様々な罪に問われるものだ。刑事事件にならなかっただけ、温情をかけられた方である。
しかしそんなバーソロミューを見て、唯斗の纏う空気が揺らいだ。そして、ぽつりと言葉が降ってくる。


「いや…悪い、言っていいことじゃなかったな」

「…?事実だろう。なぜ傷つけられた側の君が謝る」


まさか唯斗が謝るとは思わず、バーソロミューは首をかしげる。一から十まで、すべてバーソロミューが加害者だ。サンソンたちも疑問符を浮かべていた。


「俺は弁護士でも裁判官でもない、法廷に出てないお前を犯罪者と呼ぶのは非弁行為みたいなもんだ。それに何より、どんな理由であってもお前の尊厳を傷つけていいことにはならない」

「…っ、君は…少し、優しすぎるんじゃないかい…?」

「それには同意だな。唯斗、そんな情けかけてやる必要はありません。即刻キャメロットに送り返しましょう、もちろん着払いで」


冷静に、淡々としながらしかしその言葉はあまりにも生真面目で誠実だった。バーソロミューは、家族でありながら侮蔑の目で自分を追い出した者たちを思い出す。
尊厳を傷つけていい理由などない。その言葉に、不覚にも少しだけ涙が出そうになったのだ。


「……君がなぜ、この二人と一緒に東京に戻ったのか、聞いてもいいかい…?君のことを、よく知りたいんだ」


バーソロミューは唯斗の顔をまっすぐ見上げた。好奇心でも興味でもない。ただ、知りたかった。唯斗のことが知りたいと思った。
唯斗は少し呆れたようにしてから、「仕方ねぇな」と言って過去のことを話してくれた。


日本で生まれるのと同時に母を亡くし、父はそのショックから唯斗を連れてフランスの実家に戻ったものの、唯斗を息子とは思わずネグレクトを行った。代わりに面倒を見ていたフランスの伯母は、唯斗の4分の3がアジア人であることから差別的な言動を繰り返し、軽い暴力とひどい暴言を唯斗は日常的に受けていたそうだ。
その後、日本に一人で移り大学を出た後、ルクセンブルクで就職した。


「そこでサンソンたちと出会ったわけだね」

「そういうこと。サンソンと出会って、俺は自分の本当の希望が、逃げることじゃなく自由になることだったんだと気づいた。サンソンも同じで、だから、二人で自由になるために日本に行こうって話になった」

「…僕も、唯斗と同じく、逃げ出した身だった」


唯斗が話したことで、サンソンも話してくれる気になったらしい。昼間は断られてしまったが、今話してくれているのは、バーソロミューの態度が変わったからだろう。



prev next
back
表紙に戻る