Fraternité−9


サンソンが話してくれたことも、バーソロミューの予想を超える重い話だった。
パリで大きな病院を営む両親に進路を強制されることが嫌だったものの逃げる踏ん切りがつかず、せめてもの抵抗にオランダの病院で働いていたところ、研修先のルクセンブルクで唯斗と出会った。サンソンの願いもまた、親から逃げることというよりも、自由に自分の道を歩くことだった。
そこでサンソンも、唯斗とともに日本に行って自由になることを選んだ。


「僕がお二人に会ったのはそのあとです。旅先のルクセンブルクで出会った唯斗さんに話を聞いてもらううちに、僕の我儘をたくさん叶えてもらってしまいました」


ギャラハッドは相変わらず唯斗の肩を抱いたまま、バーソロミューへの警戒は解かずに話し始めた。

こちらも非常に重い話で、そもそも母親は父親を騙して子供を勝手に身ごもって押し付けた悪女であり、ギャラハッドをフランスの実家に預けて父親も英国に逃げ込んだ。残されたギャラハッドは唯斗のように差別的な扱いを受けることに辟易とし、パリの祖母を頼ったものの、世話になる中で、どこにも居場所のないギャラハッドが生きるにはこのまま祖母と同じ弁護士となって事務所を継ぐしかないのではという思いに駆られ、居場所をなくす恐怖と祖母に報いたい気持ち、そして自由になりたいという感情がせめぎ合って限界だったらしい。
話を聞いた唯斗は、ギャラハッドの頼みで彼の父に会いに行き、そしてその父親に啖呵を切り、覚悟がないなら自分が結婚でもなんでもして連れてくとまで言ったそうだ。


「出会ったばかりの、大した縁もない僕のためにそこまで言ってくれた唯斗さんに、僕は絶対にこの人を守らなければと決意しました。ということなのでミスター・ロバーツ、いつでも荷物をまとめられるよう準備をしておいてください」

「こらギャラハッド」


しょうがないな、というように唯斗はこつりとギャラハッドの額を指の関節で叩く。ただ触れるだけのような軽いそれと、恐らくは「こら」という可愛らしい表現にときめいたのか、ギャラハッドは顔を若干赤らめて「すみません…」と謝った。こちらは一切見なかった。
それにしても、サンソンもそうだがギャラハッドはもっと重い感情を唯斗に向けていそうだ。

そして唯斗はそのままバーソロミューに向き直る。


「で、お前は?社員に愛されながら不正を行ったのは、私腹を肥やすためじゃないんだろ?」


そうして聞かれたことに、バーソロミューはバッと顔を上げた。サンソンとギャラハッドも怪訝な顔をしている。どうしてそこまで知っているのかという表情だ。
どうやらバーソロミューを迎えるにあたって、それなりに唯斗には情報が渡されていたようだ。
質問ではなく断定の口調である唯斗に、バーソロミューも話すことにした。自身の罪の理由を。


「…いや、違う。理由は二つ、一つはただの承認欲求、もう一つは実務的な理由だ」


バーソロミューがBlack Bartグループの子会社の社長に就任して最初に行ったことは、社内改革だった。末端まで劣悪な環境だった労働条件を次々に改善していき、まずは人に投資した。賃上げや残業規制、不要なプロセスの排除と適切なシステムによる電子化など、現代的かつ現実的な改革をトップダウンで推し進めた。


「個々人のパフォーマンスを最大化しなければ利益は出ないと考えた。グループそのものは世界で類を見ない大きさだが、私の会社自体はどこにでもあるような会社だ、同業他社に差をつけるために何でもするつもりだった。当然、人件費の増加は大きく、それを正当化し黒字を維持する必要があった」

「それが不正の実務的な理由だな」

「あぁ。そして個人的な理由、正直こちらの方が大きいのだが…私は、親兄弟に認められたかったんだ」



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