サヘルの夜明け−38


13時すぎ、テレビでARSNがモイヤンニジェール州に侵入して集落の「解放」を宣言していると国営放送が報道し始めたころ、唯斗は外務省に連絡を取った。退避の正確な日時を決定するためだ。

そこで、17日の14時にラヴァルヴィル空港の着陸許可が出たため、それまでに空港に集まるという方針に決まった。だが、最終決定ではない。各勢力が接近していることは当然外務省も把握しているため、明日16日の状況を見て最終決定とすることになっている。
16日にこちら側と本省で最終決定をしない限りは自衛隊機も飛来しないため、すべては明日の最終決定を待つ形である。

同時に、唯斗はエドモンに電話をして、16日のうちにバスを大使館へ持ってきて一家で大使館に退避するように伝えた。

方針が決まったところで、唯斗はリチャード以外の大人全員を大使館のエントランスに集める。子供たちは含まず、ウマル、サンガレ、ウスマン、アダム、ムーサ、マリー、インナ、クレア、加奈子、美紀の10名だ。
大人だけといっても、やはり10人ともなると立派な集団である。少し緊張したが、唯斗は今後の方針と大使館のルールを説明することにした。


「改めて、日本国外交官の雨宮唯斗です。今後のことについて説明します。まず方針ですが、明後日17日の14時に自衛隊機を空港に派遣する予定になっています。ただ、市内の状況によって変わるため、明日16日の最終決定を待ちます。明日決めることができなければ18日に延期されます。日本への退避希望は、明日16日18時までに決定し、私に報告してください」


17日か18日になる、ということは事前に話してあったため、これについては特に新しい情報ではない。落ち着いて聞いてくれていることに感謝しつつ、今回伝えたい最も重要な話をする。


「今日から私たちは二日間から三日間、同じ施設で生活します。決して広い場所ではなく、制約も多い場所ですから、守ってほしいルールがあります。まず一つ、緊急時を除き、大使館の執務室には入らないでください。1階の大使室と事務室、地上階の領事業務室です。二つ目、持ってきた備蓄が切れた家庭から大使館の共同備蓄で生活しますが、極力節約しながら生活する必要があるため、食事も水も最低限となります」


この辺りは当然のことであるため、全員特に異論はない。そもそも自宅に留まれば食事も水も一切手に入らなかったはずであり、食事にありつけるだけマシだろう。


「三つ目、武装勢力に目を付けられないよう、極力目立たないようにする必要があるので、子供たちをあまり自由に外で遊ばせないでください。今日は中庭で遊んでもらって大丈夫ですが、3区の状況が悪くなった場合、屋内にいてもらいます」


これも身を守るために当たり前のことだ。各家庭でもシャッターを閉めていただろうし、子供たちを家から出していなかったはずだ。


「最後に四つ目。助け合い、協力し合いましょう。正直に言って、状況は悪いです。恐らく私たちは大変な三日間を過ごすでしょう。それぞれができることをして、協力して困難を乗り越えたいと思います。以上、この4つのルールを必ず守って生活してください」


4つ目のルールにも異論は出ないが、内心ではどうか分からない。ウマル、ウスマン、ムーサの家は全員ムスリムのプラ人だが、インナとクレアは宗教や民族が異なり、明日やってくるエドモンたちも同様だ。


「食料の備蓄管理は大使夫人にお願いをしています。今後さらに人数が増える可能性があることも見越して、全員が食事できる状態を数日維持できるよう計算してくれているので、必ず指示に従うようにお願いします。また、公邸では夫のいない成人女性が過ごす予定なので、男性の方は許可なく入らないようにしてください。以上です」


最後に細かい共有をしてから解散となる。反発などはなく、全員こちらの指示を受け入れてくれていたようだったが、衝突なく過ごせるかは分からない。なにせここは、この国の対立の縮図のようになっているのだから。



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