サヘルの夜明け−54
「よければ、私とエドモンに銃を教えてくれないだろうか。撃つのがダメなら、扱い方だけでもいい。戦闘に加わることができなくても、装填やメンテナンスの手伝いとか」
「俺たちも、できることをやらせてほしい」
どうやらウマルとエドモンは、銃の使い方をリチャードに教わりたいらしい。正確には、警備の三人の誰かにその時間を作ってほしい、ということだろう。
最初は護身用かと思ったが、どうやら三人を手伝いたいからだそうだ。
「別に構わないが…二人は運転手だ、特にウマルは毎日のように働いてくれてるだろう?」
「外出してる間だけだからだ。それ以外の時間は何もできない。食事の用意ができるわけでもないし、それなら男として、家族がいるこの場所を守りたい」
「俺なんて空港への移動でしか仕事がないからな。時間はあるんだ、あんたらに守られてるだけってわけにはいかないだろ」
ウマルとエドモンの意気込みを聞いて、リチャードは微笑む。そして鷹揚に頷いた。
「よし!いいだろう!ムーサたちと相談する。といっても、俺の武器は少し扱いづらい。言葉のこともあるし、俺は今日は唯斗の護衛もあるから、ムーサとウスマンに時間を作ってもらえるよう話を通しておこう」
「分かった、ありがとう」
二人は礼を言って大使館に戻っていった。強盗の襲撃を経験したウマルならまだしも、エドモンまでこういうことを言い出すとは思わなかった。
さらにそこへ、田中たち日本人8人もやってくる。
「雨宮さん、」
「どうしました?」
「何か私たちにもできることはありませんか。食事は現地の方に任せきりになってしまったし…」
代表して田中がそう聞いてきた。田中を含む夫婦3組と独身の男性1名と女性1名であり、うち夫婦一組は60代の高齢者である。
その60代の温厚な男性が口を開く。
「昨日、あなたが言っていたことを聞いて、何かやろうと思ったんです。みんなで協力していこうと。そう思って皆さんに声を掛けたら、同じことを考えてくれていましてね」
全員フランス語ができるのだろう。この国に駐在し、こんな状況まで残っていたのだから当然だ。そして唯斗の言葉を聞いて、何か自分たちにもできることをしよう、と思ってくれたのだという。
胸が温かくなって、不覚にも一瞬視界が緩む。ぐっと強く瞬きをして堪えた。
「…っ、ありがとうございます。助かります。それでは、館内の清掃、蝋燭など消耗品の交換、煮沸した井戸水での洗濯、今日これからやってくるほかの日本人への施設の説明や案内をお願いしたいのですが、よろしいですか」
「むしろそうしたことを外交官の方にさせずに済むなら、ぜひやらせていただきたい」
唯斗は簡単に各仕事の内容を話してから、後ほど改めて説明する時間を設けることにして、今は朝の時間を休んでもらうことにした。日本人たちは自分たちで役割分担をするために話しており、それを見て、唯斗は胸元を抑える。リチャードは軽く肩を抱いてきた。
「手伝いをしてくれるって?」
「あぁ。昨日の話を聞いて、何かやろうと思ってくれたって。ちゃんと、伝わってたんだな」
「そう言っただろう?唯斗の心はちゃんと届いた。だから、みんな協力的になってくれている。これはすごいことだ。これだけの人々を動かしたんだ。きっと大使も喜ぶ…いや、大使なら、君ならできると思っていたんじゃないか」
そんなリチャードの言葉に、先ほど抑えたものが再び込み上げそうになり、深呼吸をする。ここで泣くわけにはいかない、という唯斗の意志に、リチャードも応じたのか手を離して空気を切り替えた。
「じゃあ、俺はムーサたちに話をしてくる。日本人の収容に向かう時間が決まったら教えてくれ」
「ん、分かった」
橋本もリチャードも、唯斗以上に唯斗のことを信じてくれていた。だがそれは、彼らがいたからだ。彼らがいてくれたから、唯斗はかつての自分には到底できなかったと思っていたことにも実現できたのだ。