サヘルの夜明け−61
昨晩のうちに、朝食は7時半までと伝達してあったため、その時間までに全員が食べ終えた。唯斗は公邸で片づけを行い、加奈子たちには公邸の最終整理を行うよう指示した。
キッチンで皿をすべて洗い終え、ごみも処分し、一通り綺麗にする。公邸の各部屋からは、準備を終えた女性たちが次々と出てきて大使館へ向かっていた。
準備ができ次第、エントランスに集合するよう言ってあったためだ。
唯斗が公邸を出ると、ちょうど正門をウスマンが開いてJICAのバンを招いているところだった。無事に間に合ったらしい。
そちらへ向かうと、すぐに運転席から豊田が出てくる。
「おはようございます、雨宮さん。市内は空いていました」
「おはようございます。それはよかった。ただ、恐らく空港までの道は大渋滞するはずです。ガソリンは大丈夫ですか?」
「6時間くらいなら大丈夫です」
「なんとかなりそうですね。少し待っていてください」
唯斗は豊田と別れ、駐車場に停められた2台の中型バスに向かう。すでにウマルとエドモンが調整を行っていた。ガソリンはすでに昨晩のうちに備蓄ガソリンを給油してある。
「ウマル、エドモン、問題なさそうなら、準備が終わった人を乗車させたい。大丈夫そうか?」
「どちらも大丈夫です」
エドモンが答えてくれたため、すでに集まりつつあった人々に声をかける。
「日本人はこちら、ピナルエサヘル人はこちらにお願いします。アデルとオディールはエドモンの方に乗ってくれ」
指示すれば、日本人がエドモンの運転する1台目、現地人がウマルの運転する2台目に向かっていく。エドモンの家族であるアデルとオディールだけは1台目に乗ることになっていた。合わせて30名ちょっとが乗り込んだため、唯斗は最終確認の段階に入る。
やるべきことは施錠、窓のシャッターの確認、蝋燭が消えて出火しないかのチェック、生ものやゴミの処分といったところだ。ブレーカーはすでに落としてある。
地上階ではすべての部屋を施錠、1階は日本人が全員退室していたためこちらも大使室以外はすべて施錠する。ちなみに部屋は唯斗とリチャードが使っていたときより綺麗になっていた。
2階に上がると、ムーサの家族がちょうど出てきたところだった。
「ムーサ、荷物は大丈夫そうか?」
「問題ありません。すみません、お待たせしました」
「まだ時間じゃないから大丈夫だ。ウマルがいる2台目に乗っててくれ」
ムーサは頷いて、家族を連れて歩き出す。4人の子供たちは、今日ばかりは静かだった。
2階の各部屋を回ると、現地人の水準からすれば綺麗になっており、シーツやら衣類やらは散乱していたが、ゴミはなかった。
こちらもすべて問題ないことを確認し、客室は施錠の必要がないためそのままとする。
唯斗はいったん大使館を出て公邸でも同じことをした。機密情報なども見当たらず、全員がすでにバスに乗り込んでいたため問題なさそうだった。
こちらは玄関のみ施錠する。ついでに中庭の自動車も問題がないか一通り確認してから、再び大使館に戻り屋上に上がった。
「リチャード、準備完了だ。行こう」
「あぁ!」
リチャードはいったんライフルを背負いなおすと、ざっと屋上を見渡して銃弾などが残っていないか確認する。問題なさそうだったため、唯斗は二人で1階に降りて大使室に入る。
唯斗は自分のリュックを背負い、リチャードも自身のリュックを手に持って、拳銃をホルスターに引っ掛ける。
そうして部屋を出ると、鍵をかけて玄関に降り、外に出ると玄関も施錠する。
先にリチャードを1台目に乗せてから、唯斗は2台目、1台目、JICAのバンの順に確認し、全員が揃っていることをチェックリストで確かめた。
ムーサとウスマンはまだ外に残っている。いったんバスとバンを出してから正門を閉じるためだ。
唯斗がバスに乗り込み扉が閉まると、正門が開いてエドモンがバスを敷地外に出す。リチャードは助手席、唯斗は一番前の一人掛けの席に座っていた。
そして、3台が出たところでムーサとウスマンが正門を施錠すると鍵を唯斗に渡してくれたため、窓を開けてそれを受け取り、二人は2台目に戻る。
時刻は午前8時10分。いよいよ、ラヴァルヴィル空港へ出発する。