サヘルの夜明け−72


ARSNとDASAKがにらみ合う緩衝地帯となっている、市内北東部の8区は、ラヴァル川を挟んで2区の北側に隣接する。そのため、政府軍・フランス軍が確保する2区から緩衝地帯の8区を抜け、8区の北側に広がる溜池であるマロリ湖方面から北に抜けていくことで、82号に合流できる。それ以外のルートはすべて、ARSNが支配する6区と7区を通る。ARSNの拠点がある大モスクは、国道82号とダンババ通りが交わる場所にある交通の結節点であり、この近くを通らずに国道82号に合流することは難しい。

マロリ湖は10月2日湖の北に10数キロ離れた場所にあり、2つの湖の間に8区とマドゥー地区がある。よって、マドゥー地区を襲撃するDASAK連合軍がやってきた場合には巻き込まれる恐れが高かった。


「フランス軍のウーロ・ジャムへの移動は何時を予定されていますか」

「まず、これより市内から陸軍基地へのピストン輸送を開始します。市内に残っているフランス人、およびフランス政府が避難を引き受けた外国人や国連等の国際組織のスタッフ、そして政府軍が保護する外国人を、陸軍基地にまとめます。その後、陸軍基地を15時に民間人護衛車列が出発、国道82号を北上し、ウーロ・ジャムに移動します。17時頃にウーロ・ジャム空港到着を予定しています」

「承知いたしました」


一通り状況が確認できたところで、端末がある部屋に通される。そこではすでに、何人かのフランス外交官らしき人々がスマホで電話をしていた。

唯斗は礼を述べて、外務省に電話をかける。


『こちら外務省危機管理担当、雨宮さんですか!?』

「はい、ピナルエサヘル日本大使館の雨宮です。昨日出発した便の邦人は無事にジブチに着きましたか?」

『あぁ良かった、ご無事で安心しました。C2で退避した邦人および米国人は全員、ジブチ基地に到着しており、C2は再度の飛行に向けて準備を終えています』


無事に邦人がジブチに到着したと聞いて唯斗も安心する。最も唯斗の助けが必要だった人々は自衛隊に保護されている。米国人もジブチの米国基地から退避できるだろう。


「今、ラヴァルヴィル1区のフランス領事館から電話をしています。これより、大使館に戻って残りの邦人および現地対象者を連れてフランス軍に合流し、現地時刻15時にフランス軍とともにウーロ・ジャムへ向けて出発、空港到着は17時過ぎを見込んでいます」

『承知いたしました。それでは、ウーロ・ジャム空港を18時に出発できるよう、輸送機を手配します。今回もジブチからC2、アクラからC130の2機体制とし、国連職員などの輸送に協力します。今回はラヴァルヴィルと違って差し迫っておらず、諸外国の退避もかなり進んでいることから、確実に邦人を乗せるまで待機させます』


軍用機のため、政府が拒否すればそれまでだ。断言できる性質のものではないが、それでも「確実に待機させる」と言うということは、外務省および政府は、シモン政権に対して相当に業を煮やしているようだ。絶対に言うことを聞かせるということだろう。日本だけでなくフランスやエジプト、中国などほかの国々も多大な迷惑を被っているため、米軍による斬首作戦すらも選択肢に上がるころだ。つまり、シモン大統領を米軍が暗殺し、首都を制圧して外国人退避を強行する、ということである。
それほどまで強い選択肢を本国が想定していることが窺えるため、それならウーロ・ジャムからの退避は問題なく実行できるだろう。辿り着くことだけが問題だ。


「ありがとうございます。フランス側にもそのように伝えます」


電話を切ると、18時にC2、問題がなければその後C130が利用できることをニコラに伝えた。ニコラはメモを取って、部下に指示を出す。


「アクラからナイロビまでのチャーター機を確保できるか確認を。ナイロビの国連本部にもスタッフ退避の打診をしてくれ。日本がC130で輸送してくれるなら、国連のアフリカ人職員をガーナ経由でナイロビ本部に移動させる」


国連本部の一部は、すでにケニアの首都ナイロビに移転している。ピナルエサヘル国内で働いていた国連組織の人員のうち、ピナルエサヘル人を含むアフリカ系のスタッフはケニアにまとめて退避させ、欧米系はフランスに退避させる、という方針とするのだろう。


「ありがとうございます、雨宮さん。恐らくC130には国連現地スタッフを乗せることになると思います。我が国のコートジボワールへの輸送機に乗り切れなかったり間に合わなかったりした場合のことになりますが」

「承知いたしました、日本側もそのつもりです。では我々は、陸軍基地で集合でしょうか」

「いえ、ピストン輸送から参加してもらえたらと思いますので、準備ができ次第、まずはフランス軍がいるマリア病院まで来てください」


どうやら市内から陸軍基地への移動から面倒を見てもらえるらしい。マリア病院は、領事館から少しダンババ通りを北上したところにある、1区中心部の病院だ。この国で最も高度な医療が受けられる大規模な病院であり、フランス軍が駐屯している。


「領事館から大使館までは、我が国の輸送車で護送します。大使館からマリア病院までは、どうかお気をつけて来てください」

「本当に、何から何までありがとうございます」

「こちらも輸送を手伝っていただける上に、我が国の市民を保護していただき感謝しています。また後ほどお会いしましょう」

「はい、後ほど、必ず」


どのタイミングでの再会となるかは分からない。恐らく、マリア病院ではないだろう。陸軍基地での再会となるはずだが、混乱の中では首都まで待つことになるかもしれない。

固く握手をして別れると、フランス軍の兵士が1人やってきて唯斗を案内する。途中、玄関でリチャードと合流してから、フランス軍の機動車に乗って一気に大使館へと向かってくれた。途中、銃撃こそあったがさすが歴戦のフランス軍、まったく問題なく大使館に到着する。



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