サヘルの夜明け−81
その後、基地に入ると赤十字のスタッフに保護された。唯斗たちは赤十字のバスに乗ることになっているそうだ。
現地人は赤十字による簡単な診察を受け、リチャードとムーサ、ウスマンは車列が襲撃された際の応戦についてフランス軍と簡単に打ち合わせる。軍の指揮下にない攻撃を行われるのは問題となるため、優先順位や指示系統などを確認するのだろう。
一方、唯斗はイザベルの案内で、フランスに託していたJICA職員5名と外国人4名と再会。特に問題がないようで安心したが、問題があったとすれば唯斗の方であるため当然ではあった。ちなみに、外国人に渡していた送り状は改めて唯斗が回収しておく。
その後、ニコラとも再会。ニコラ、イザベルとともにウーロ・ジャム空港での行動を確認し、空港に直接車列が入り、そのまま各国の輸送機に乗ることで決まった。
唯斗たちはもちろん、C2輸送機には残りの外国人や赤十字、国連、NGOのスタッフを乗せることになっている。ほとんどが欧米や東アジアの市民だ。
そういうこまごまとした打ち合わせを終えれば、あっという間に出発時刻となっていた。
唯斗は基地内の各地に設けられたテントを回り、JICA職員、外国人、現地人、リチャードと次々と保護下の者たちに集合場所を伝えていき、先に集合場所となる駐車場で待機、全員がバスに乗り込んだのを確認し、それをイザベルに伝えてから自身もバスに乗り込んだ。バスは小綺麗な観光バスだった。
「唯斗!」
空席を探して通路を歩いていると、リチャードが声をかける。窓側の席を確保してくれていたらしい。いったん立ち上がったリチャードに「ありがとな」と言ってから窓側の席につく。手に持っていたリュックはリチャードが荷物棚に上げてくれていた。
左隣の通路側にリチャードが腰を下ろしたところで、バスが動き出した。何台ものバスが並んで動き出しており、一緒にフランス軍の兵士を乗せた輸送車や機動車が並走する。恐らくこの車列だけで1500名は運んでいるだろう。最大の車列とはいえ、これもまだ第一便だそうだ。
基地の敷地を抜け、砂漠を貫く国道1号を走り出す。基地より北側の国道1号はいまだに政府側が掌握している。
窓から振り返ると、基地の向こう、スラムの丘のさらに南にあるラヴァルヴィル市街地から黒煙が上がっていた。恐らくすでに大使館の建物も占拠されていることだろう。
しばらく窓の外を見つめていると、左肩を軽く叩かれる。そちらを向くと、リチャードがパンを差し出していた。
「さっき赤十字から配られたんだ。唯斗はずっと基地でも歩き回ってただろう?朝食から何も食べてないだろうから、確保してきた」
「うわ、見たら腹減ってきた…ありがとう」
渡されたパンはブリオッシュで、さすが旧フランス植民地だけあって美味しかった。ジャムなど何もなくても十分美味しい。
ひとしきりもぐもぐと食べてから、車内に入り込む横からの日差しが厳しくなってきたため、カーテンを閉める。
「今日は朝から大変だっただろう、休んでていいぞ」
「え、」
するとリチャードは、そう言いながら唯斗を自身に凭れさせた。有無を言わせず、唯斗は左のリチャードの肩に頭を預けるように体を傾けさせられる。
ここからウーロ・ジャムまで2時間ほど、そう長いわけではないが、ずっと体重をかけられて気にしないのだろうか。そう思ったが、腕枕のときもまったく問題なさそうだったため、唯斗程度ではリチャードの体の負担にはならないらしい。それはそれで複雑だ。
だが、きついエアコンの寒さもあって、リチャードの温もりが急に睡魔を誘う。いつでもそうだ、ここ数日、リチャードが一緒に寝てくれるときはいつもすぐに寝つけた。
不思議だな、と内心で独り言ちる。これまでずっと一人だった。まともな家族も知らない唯斗にとっては、孤独が当たり前で、それは特別なものではなかった。
それなのに、この1週間の日々の終わりにあるリチャードとの別れが、ひどく冷たく、恐ろしいもののように感じられてしまった。