Dom/Subシリーズ−騎士王の激情3
強度の最大値が3度の場合、そう頻繁に解消を行う必要はない。
唯斗がアーサーとプレイをすることになったのは、召喚から時間が経った第三特異点からの帰還後となった。
第二特異点、第三特異点と旅をするうちにアーサーとの距離は縮まっており、マスターとサーヴァントの関係においては非常に良好だ。
通常の人間関係と違い、マスターとサーヴァントの関係であれば、特にサーヴァントがDom性でマスターがSub性の場合、保護欲求は自然と解消される。普段の戦闘がそもそもサーヴァントによるマスターの保護を前提としているため、守り守られるという行為は普通にしているだけで実行できるものだ。
自立特性と開示特性の欲求が低い二人にとって、目下解消するべきは干渉特性、つまりアーサーの介助欲求と唯斗の被虐欲求である。
これを解消するため、夜に時間を取った。
唯斗の部屋にやってきたアーサーを招き入れると、沈黙が落ちる。こういう経験がない唯斗は、急に緊張してきて、心臓が口から出そうな気がしていた。
別にプレイというものは必ずしも性的なものである必要はないが、欲求を相手に見せるというのはとてもデリケートなことだ。
しかも加虐・被虐欲求の解消の場合、多くの場合は性的なものにならざるを得ない。唯斗の解消には、そういう接触も避けられないだろう。
あからさまに緊張していたからか、アーサーは苦笑して唯斗の頭を撫でる。
「そう緊張しなくていい。現代式の解消方法は僕も学んでいる。安心して、僕に委ねてくれればいい」
「…ん、分かった。本当はこういうの、任せきりにするべきじゃねぇんだろうけど…」
「第二性差の確立は15歳から16歳にかけて。君はまだ確立したばかりなんだ、少なくとも最初は任せてくれていいさ」
アーサーはそう言って、唯斗をベッドに座らせる。そして唯斗の正面に膝をついてこちらを見上げた。まさに騎士の姿勢である。
「ではまずセーフワードを決めよう」
セーフワード、正式な日本語名は被支配性特性解放禁則というが、これはSub性がDom性に対して発する言葉であり、拒絶を意味する。ただの言葉ではなく、Dom性はこの言葉を拒絶として認識しているため、たとえプレイ中であっても、セーフワードを言われると本能的に動きが止まる。
「いるか?令呪だってあるし」
「だめだよ、こういうのはちゃんとしないと」
いきなり決めろと言われても、余裕のない中で咄嗟に言えて、かつ意図に反してうっかり言ってしまわない言葉というのは難しい。
「じゃあ…ディベン、でどうだ?ブルトン語で終わりとか終了って意味」
「ディベン、だね。分かった。無理だと思ったら遠慮なく言うんだ。いいね?」
唯斗は素直に頷く。アーサーが唯斗の嫌がることをするとは思えなかったが、こういうところをきちんとするのがアーサーらしい。
アーサーは唯斗の左隣に座る。そして、Dom性を解放したのか、纏う空気が張りつめた。
「ではマスター…『おすわり』」
「っ、」
これはDom性のコマンドと呼ばれる命令だ。日本語もそのまま命令と呼ぶが、近年はコマンドという方が多い。コマンドは両性が認識できればどんな言語や言葉でもよく、Dom性のコマンドにSub性が従う、というのがプレイの基本形だ。
これは一種の挨拶のようなもの、信頼関係を確認して、このあとのプレイに安心して取り組むために行う。ただし、コマンドそのものがプレイのコアとなることもあり、特に加虐欲求ではそれが顕著だ。
唯斗はSub性の本能で、コマンドで言われるがまま、ベッドを降りてアーサーの正面に膝をついて座り込む。
一瞬で脳内がDom性に支配され、くらりとするような酩酊にも似た感覚だ。言うことを聞きたい、という強い本能が沸き上がる。
「いい子だ。『目を見て』」
つい俯いていたが、その言葉ですっと顔を上げる。アーサーの美しい翡翠の瞳を見つめると、吸い込まれそうな気がしてくる。
「上手だよ、可愛いね」
「っ、アー、サー…」
褒められた瞬間、ぞくりとしたものが背筋を沸き上がる。指示に従って行動し、それを褒められた。
支配されたいという欲求が、支配されて嬉しいという喜びに昇華する。初めての感覚に戸惑うのは理性だけで、本能はすでに、アーサーのコマンドを待っていた。
「さて、マスターは被虐欲求があるんだったね。どうされたい?」
「え、と…」
さすがに直接的なことは言うのが憚られる。だが、アーサーは綺麗にほほ笑んだ。
「だめだよ。『言いなさい』」
「…っ、拘束して、動けなくしてほしい…そんで、好きにしてほしい…」
「よく言えたね。じゃあ、そうしよう」