Dom/Subシリーズ−騎士王の激情6
唯斗はアーサーとともに自室に入る。肩を抱かれて部屋に入ると、外側からマーリンによる封鎖術式が展開された。さすがマーリンというべきか、これは現代魔術師ではまず破却できない。キルケーやメディアが時間をかければやっとというくらいである。
「すまない唯斗、隠すようなことになってしまって」
「…変なこと言っていいか?」
まだ激情を抑えているアーサーに、唯斗はそう尋ねる。アーサーは首を傾げつつ頷いた。
唯斗はアーサーの腕の中で向きを変え、正面から向き合う。10センチ高い位置にある綺麗な瞳を見上げつつ、アーサーに少し体を預ける。
「…隠さなくなってくれたのが、嬉しい。さっきマーリンが言ってたけど、俺のこと好きすぎて抑制術式が破綻したんだったら、俺はそれを受け止めたい」
唯斗の言葉を聞いてアーサーは目を見開く。
アーサーが隠していた本当の欲求とその強度を知ってなお、受け止めたいと言ったことに驚いているのだろう。
「俺の全部、アーサーにやる。だから、アーサーの全部、見せて」
「っ、君は、本当に…ッ、僕が僕でいられなくなりそうだ…!」
それでもなお、奥底の欲求を抑えようとするアーサー。その在り方自体が、人ではなく王であったのだから当然だ。それをこのように変えてしまうことが正しいことなのかは分からないが、もはやここまで来たら、半端に抑制する方が互いに危険である。
「大丈夫だよ、どれもアーサーだ。アーサーにとって自分じゃないと思える言動があっても、それもちゃんと、お前だって言っていいんだ」
アーサーの頬に手を添える。唯斗を見つめるアーサーの瞳が揺らぐ。
少しの無言のあと、アーサーはゆっくり口を開いた。
「…君を閉じ込めたい。誰も見られないところに。そして常に僕の目の届くところで君を守りたい。君の生命維持に必要なあらゆることを僕が行いたい」
「いいよ。その支配の形、受け入れる。アーサーの好きにしていい、そうされたい」
その瞬間、アーサーの纏う空気が変わる。それは、アーサーがこれまで卓越した精神力と王としての責任によって抑圧していた、本当のDom性が解放された瞬間だった。
「…、『力を抜いて』」
最初のコマンドを聞いた瞬間、全身から力が抜ける。立っていられなくなるが、もともとアーサーの腕の中にいたため問題はない。
アーサーが唯斗の体を完全に支え、凭れさせる形で立たせている。これを立っている、と言っていいのかは定かではないが。
肩に頭を預け、全身の体重をアーサーの体と腕に支えられている。その状態で、アーサーは恍惚としたように囁いた。
「君はこの部屋ではもう、自分の力で立つ必要はないからね」
「全部アーサーがやってくれんだろ?」
「その通りだよ。よく分かっているね、いい子だ」
Dom性介助欲求の5度は、自分なしでは相手のSubが生きていけなくするレベルを指す。これは、家事や身の回りの世話という意味ではない。それは4度の欲求だ。
5度における「生きていけなくなるレベル」とは、本当に文字通りの意味であり、食事や排せつ、歩行すらも含まれる。この状態が固定化され、さらにプレイ以外の時間にも及ぶようになった場合、Dom次第でSubは生命維持ができず死んでしまう恐れが出てくる。
これこそが、「要配慮第二性」と呼ばれる理由だ。相手の生命すらも支配するほどの強烈なDom性、あるいは自分の命や尊厳すらも支配されるほどの強烈なSub性である。
アーサーは唯斗を抱き上げてベッドまで運び、そっと横たえる。
そして、サイドテーブルから拘束具を取り出した。ロープではなく、柔らかいベルト式だ。内側が肌に優しい柔らかいフェザー素材になっており、ずっとつけていても傷つかない。
唯斗は被虐欲求があるため、あえてロープで跡がつく方がいいのだが、アーサーのDom性が強すぎるため、今はこれでいい。それに、跡がつくだけでは済まない恐れがあるため、こういうベルト式の方がいいだろう。
ベルトの間は鎖になっており、ナスカンでくっつけることで拘束することができる。
アーサーはベルトを唯斗の両手首に巻くと、両腕を体の前で拘束する。
「目隠しはしねぇの?」
「この部屋は僕と君だけだからね」
その返答に、監禁されている理由も察する。
DomがSubを監禁するときは、保護欲求と独占欲求で理由が異なる。独占欲求の場合は、監禁すること自体が目的であり、独り占めしたり相手が自分以外を見ないようにしたりする欲求の解消が理由となる。
一方、保護欲求における監禁は手段だ。Subを守るという欲求が4度以上の行き過ぎたレベルになってくると、守るためには閉じ込めるしかないという結論になる傾向があり、結果的に監禁という形になる。
加えて、自立特性が自立か依存かもキーになる。自立欲求の場合、監禁されている状態を外から見ることで欲求を解消することが多いが、依存欲求の場合、自分のことを見ていて欲しいという欲求によって自分もその空間に入ることになる。
依存欲求と独占欲求の両方がある場合、その傾向はさらに強まる。
アーサーの場合、すべてが合致する。依存欲求と独占欲求が4度、保護欲求が5度であるため、この監禁は守るためであり、自分だけを見てもらうためであり、誰の目にも唯斗を映さないためである。
だから目隠しは必要ないのだろう。