Dom/Subシリーズ−騎士王の激情9
もう何時間経ったのかも、何度中に注がれたのかも、何度達したのかも分からない。
いつの間にか手かせは外されて自由になっていた。
「…唯斗、大丈夫かい?」
ぼんやりとアーサーを見上げる。ようやく自身を引き抜き、体を離したアーサーは、唯斗の頭を撫でながら心配そうにこちらを見ていた。
「痛いところはない?」
「ねぇ、けど…体中べとべとだ…」
「シャワーをしようか」
アーサーは優しく言って、唯斗を抱き上げる。シャワーブースに連れていき、丁寧に唯斗の体を洗い流す。熱いお湯が心地よく、アーサーの腕に抱かれていることもあり、また意識が薄れる。
再び目が覚めるとベッドに横になっていた。シーツは取り換えられたのか清潔なものになっているが、服は着ていない。隣にはアーサーが添い寝になっており、腕枕されていた。
抱き締められていたようで、唯斗はもぞりと動いてアーサーを至近距離から見上げる。
「…あれ、また寝てた」
「ほんの20分ほどだよ。無理をさせてしまったね、すまない」
申し訳なさそうにしたため、首を横に振り、厚い胸板にすり寄る。まだスペースから抜けていない上に、魔力の飽和も加わって本当に酔っているかのようだ。
「謝んなよ…当然みてぇに、俺のこと、支配していい…」
「…ふふ、そうか。そうだね。僕は君の恋人で、君のDomなんだから、君を支配する権利がある」
「ん、そういうこと…」
「それでも、たくさん頑張ってくれてありがとう」
頭をゆったりと撫でられる。頑張ったね、と褒められたことで、快感とは違うじんわりとした温かい感覚が沸き上がる。
スペース中に褒められたり労わられたりすると、より満たされる。ケアとの相乗効果によるものだ。嬉しくなってさらに抱き着くと、ぎゅっと抱きしめられた。
そうしてしばらくケアをされていると、次第に意識がはっきりしてくる。スペースを抜けて通常状態になりつつあるのだ。
アーサーも欲求が解消され、いったん落ち着いたようだった。ちらりと時計を確認すれば、この部屋に閉じ込められてから18時間が経過していた。そろそろ外部とコンタクトを取らないと突入されてしまう。だがそれを指摘するとまたアーサーが揺らいでしまう恐れがあった。
「…アーサー、腹減った。飯持ってきて、ここで食べさせて」
「分かった。待てるかい?」
「遮光結界張るから大丈夫。でも早く帰って来いよ」
「当然。少し待っていて」
アーサーは唯斗の額にキスをしてから立ち上がり、霊衣を出現させる。アーサーが少しベッドから離れたところで、唯斗は光を通さない結界を展開する。唯斗を誰にも見せたくないというアーサーの欲求がまだ少し残っているようだったため、このような結界を使って自ら閉じこもるのだ。
遮音性はないため、部屋に戻ってきて声をかけてくれれば解除できる。
扉が開閉する音とともに、アーサーが出ていく。恐らく外の結界はアーサーと唯斗だけが自由に通過できる状態になっているのだろう。
少しして、廊下にやってきたのだろうマーリンから念話で声がかけられた。
(大丈夫かい?)
(問題ねぇ、アーサーも落ち着いてる。飯取りに行ってもらってるとこ。ピークは過ぎたから短期的な問題はないけど、今後、アーサーの欲求がデフォルトの状態でどう推移するかは未知数だ。もう少し安定したらダ・ヴィンチたちと相談する)
(了解したよ。では、王が戻ってくる前に退散するとしよう)
今回ばかりはマーリンとてどうなるか分からない。本気のアーサーに攻撃されればひとたまりもないだろう。珍しく茶化すことなく、マーリンは足早に廊下を立ち去った。マーリンにとっても、異世界の存在とはいえアーサー王がこのような状態になっていることに驚きがあるようだ。
数分後、思ったよりも早くにアーサーが戻ってきた。扉が開き中に入ってくる。
「戻ったよ」
「ん、」
唯斗は起き上がりながら結界を解く。アーサーが持っているトレイにはお粥が乗っており、出汁の香が漂う。出し汁で煮たお粥なのだろう、エミヤらしい気遣いである。
トレイをベッドに置いてから、アーサーは唯斗に部屋着のシャツとジャージを着せていく。されるがままに服を着ると、今度はアーサーは唯斗をベッドの上で横向きに抱きかかえた。
アーサーの膝の間に座り、右側にアーサーと触れるような姿勢になる。そして、良い加減に冷めたお粥をレンゲで掬い、念のため息を吹きかけて表面をさらに冷ましてから、唯斗の口元に運ぶ。
服を着せたのは、万一こぼしてしまったときに火傷しないためだろう。
唯斗はレンゲを口に含み、優しい味付けのお粥を味わってから飲み込む。嚥下するのを確認してから、二口目をアーサーが運んだ。
もはや唯斗が自分でやっているのは咀嚼と嚥下のみ、それ以外はすべてアーサーが行っている。
これくらいなら4度の介助欲求でも見られるのだが、5度ともなるとこれが恒常的に行われることになるうえ、トイレや歯磨き、洗顔に着替えとすべてをアーサーがやろうとするだろう。
5度欲求の発露に対して、Subからの拒絶で制限された場合、その抑圧は凄まじいものになり、爆発したときに大変なことになる。だからこそ、服薬による欲求そのものを抑える抑制治療が必要だった。