Dom/Subシリーズ−獅子心王の狂気2


確かにワイバーンなどが出てくるわけでもなく、特異点には基本的に人間しかいなかった。
その意味で、サーヴァントの敵となるような相手は一切おらず、トリスメギストスの演算は正しかったと言える。

問題があるとすれば、トリスメギストスに設定するリスク条件が甘かった、ということだろう。


「まさかお誂え向きに魔術師が捕まるとはな」

「それも二人だ!神がいるってんなら俺たちに味方してくれてんじゃねぇのかァ?」


その言葉に下品な笑いが起きる。

ここは寂れた農地に佇む、比較的大きな木造の小屋の一室だ。中にいるのは明らかにガラの悪い大柄な男たち、盗賊だろう。

この特異点の原因が、何者かによる聖杯の悪用と、それによってフランス軍の部隊が壊滅したことでフランスのベルギー統治に揺らぎが生じている、というところにあることは判明していた。
聖杯を悪用している者たちを探すうちに、やたら力を振るっている盗賊団の話題が出たため、その盗賊を追っていた。

そして、盗賊を追っている最中に向こうもこちらに気づき、わざとフランス軍とぶつかるように仕向けたため、リチャードはフランス軍と盗賊の下っ端集団とを両方相手取って戦うことになってしまった。
面で制圧可能な相手に守る相手がいる状況は適切ではないため、戦闘をリチャードに任せ、唯斗と藤丸は先にその場を離脱。

しかしそこで、盗賊の幹部連中からなる中心メンバーに捕まってしまったのだ。
そうしてこの小屋に連れ込まれ、広い酒場のような室内で男たちと相対している。

相手が魔術師という言葉を使ったため、唯斗は情報を得るべく口を開く。


「魔術師って、お前らそんなモン信じてんのか」

「あーいいってそういうの、俺の親父も魔術師だったしな。見りゃ分かる」


迷信を信じている、という体裁にしようと思ったが、向こうは意外にもきちんと魔術師を知っているようだった。どうやら父親が工房を持つ魔術師だったらしい。
それならこの路線で話を続ける意味はない。唯斗はすぐに切り替えてさらに尋ねる。


「何が目的だ」

「お前らがコソコソ嗅ぎまわってたんだろーが。ま、冥途の土産に教えてやる。魔術師を捕まえて、手に入れたあの聖杯を永遠に使えるようにする」

「…、魔術師の体を使って聖杯の魔力と出力機構を維持しようってわけか」

「そうだ。そうすりゃ、俺たちは食いっぱぐれなくなる!」


小特異点とはいえ聖杯の力が強すぎるため、魔術師を使ったところで延命にはそうならない。だが、まったく効果がないわけでもない。複数人を連続で使えばなおさらだ。


「それに、こちとら女日照りなもんでな。都合よく若い女の魔術師までいやがる!」


さらに、ゲラゲラ笑いながら男たちはそうのたまった。

状況はわりと最悪だ。
普通の人間なら唯斗の相手ではない。しかし、男たちは見るからに魔術で強化されている。聖杯のバックアップを受けているためだろう。その程度の知識はあるようで、さすがに唯斗では倒しきれない相手になってしまっている。
リチャードはかなり離れた位置で戦っている上に、唯斗はここまでの戦闘や藤丸との脱出の過程で令呪を3画使い切っていた。この場に強制移転という手は使えなかった。

トリスメギストスの演算がどのように行われているのかは人間には理解できない。だが、結果から逆算することはできる。
このような状況は想定しているはずで、そのうえで、唯斗でも勝てない人間が現れている。命を落とす、および不可逆的な負傷をしないというリスク条件を満たしていることを踏まえると、唯斗は逆説的に、藤丸を守ってこの場を切り抜けられるとトリスメギストスは判断しているということだ。
その方法など分かり切っている。


「…ダ・ヴィンチ、トリスメギストスのリスク判定に変動はねぇな?」

『ない、しかしおかしいな、この状況は極めて危険だ。君にも分かっていると思うが、相手は人間の域にはいない強さを有した状態、リチャードでしか倒せない』

「倒さずにこの場をなんとかできるってことだろ。かつ、藤丸に致命的な損害を与えないことも可能。それがトリスメギストスの答えなら、俺がやるべきことは一つだ」


通信で小声で話す。魔術によって声が相手に届かないようにしているが、口は最小限とはいえ動いているため、長い会話は不可能。相手が動き出す前に行動しなければならない。

唯斗はその場ですぐに、藤丸を覆う結界を出現させた。強固なそれは、いくら聖杯のバックアップを受けていても、力では押しきるのは時間がかかる。


「なっ、テメェ何しやがる!!」

「お姫様守ってるつもりかァ!?」

『ちょ、何してるの唯斗!』


自分だけが結界に閉じ込められたことに気づいた藤丸が呼びかけてくる。音は遮断されているのだ。


「一緒に結界で籠城するには、リチャードを待つ時間が足りない。俺が時間を稼ぐしかない」

『まさか唯斗君、君は…ッ』


ダ・ヴィンチが息を飲むのが通信から聞こえる。珍しくかなり焦っているようだった。それもそうだろう、万能の天才なら、唯斗との会話からこの行動ですぐに、唯斗の意図を理解した。


「おいお前ら、この女の魔術師は大した魔術回路持ってねえ。俺だけで並みの魔術師二人分はある。なら、俺だけで十分だろ?どっちの目的も」


ニヤリとして言ってやれば、男たちは互いに顔を見合わせてから、下卑た笑みを浮かべる。


「…ま、そうだな。この際だ、とことん神とやらを冒涜してやろうぜ」


やたら神に対して不遜な態度を取ることからも分かっていたが、やはりかなりのアンチキリスト教徒だ。ならば、ソドミー罪。すなわち同性の性交渉はむしろ能動的に受容可能となる。

要は、唯斗が体を差し出すことで時間を稼ぎ、その間にリチャードの到着を待つ、ということだ。


『そんな、そんなのダメだよ唯斗!』

「お前よりはダメじゃないだろ。初めてでもねぇしな。でもダ・ヴィンチ、さすがに存在証明に必要最低限の観測だけにしてほしい」

『……、分かった。本当にすまない』


まさに文字通りの苦渋の決断、といった様子でダ・ヴィンチが了承した。現状の打つ手はこれだけだと分かっているのだろう。

通信が終わり、声が聞こえなくなる。こちらから通信を開くまでは、音声や映像は記録できない。もちろん、藤丸の声も聞こえないし、藤丸もこちらの音声を聞き取れない。


「お前、被支配性か?」

「そうだけど」

「ますますいい。じゃ、あっちの部屋行こうぜ」


乗り気の男たちに促がされ、ぞろぞろと隣の部屋へと入っていく。
続いて入ると、部屋の真ん中にはテーブルが置かれていた。

男たちの数は8人。何人目でリチャードが来てくれるだろうか、と思いながら、建付けの悪い扉が閉まる不快な音を聞いた。



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