Dom/Subシリーズ−獅子心王の狂気4


その次の瞬間、リチャードはとてつもない圧力を放った。空気が震えているのではないかというほどのそれはグレア、支配性威嚇と呼ばれるDomのみが持つ第二性差性反応の一種である。
Domとして圧倒的なリチャードのグレアは凄まじく、男たちは膝から力が抜けて一斉にへたり込む。
その一瞬で、リチャードは剣を抜いたかと思うと、目にも止まらぬ速さで室内を駆け抜けた。僅か1.5秒の刹那で、8人の男はこと切れていた。遅れて鮮血が噴き出し、壁に大量の血が飛び散る。

僅かに返り血を浴びたリチャードは、その端正な顔の頬に血が付着している。それを雑に拭い、剣に着いた血を一振りして吹き飛ばす。それによって、また壁に血のラインがついた。


「…遅くなってすまない、唯斗」

「だい、じょうぶだ…ありがとな」


なんとかそれだけ言って体を起こそうとするが、リチャードはそれを制する。
そして、マントを外すと唯斗の体を優しく拭いた。男たちの精液やらなんやらで汚れた体を、タオルのようにマントを使って拭いていく。


「ちょ、汚れる…」

「霊衣は汚れない。霊体化すればいいだけだからな」


いつもの溌溂とした喋り方は鳴りを潜め、淡々と話す。様々な感情を押し殺した様子に、唯斗も何も言えなかった。

言葉通り、リチャードは唯斗の体を拭き終えて礼装を簡単に着させたあとにマントを一度消失させ、再び出現させる。綺麗になったそれを唯斗の体にかけた。
さらに、いつもの騎士としての霊衣から、えんじ色のジャケットの私服に変更したうえで、唯斗を抱き上げた。鎧のままでは唯斗が痛がるという配慮だろう。

礼装を着ているとはいえ、唯斗の体は一目で暴行を受けたと分かる状態だ。マントで隠してくれて助かった。
横抱きで抱かれて部屋を出たところで、唯斗は結界を解く。中にいた藤丸は唯斗を見上げ、半泣きになる。


「ッ、ごめん、ごめんね唯斗、私、何もできなかった…っ!」

「いつも十分すぎるくらいいろいろ頑張ってくれてんだろ」

「あの男たちが卑劣であっただけだ。藤丸、君のせいではないぞ」


唯斗とリチャードが相次いでフォローしたところで、唯斗は通信を再開した。魔力の反応からして、リチャードは先ほど男たちを皆殺しにしたときに聖杯を回収している。


『唯斗君!無事かい!?』


即座に、通信からダ・ヴィンチの珍しく焦った声が聞こえてくる。
別に男が男に襲われたくらい大したことではないだろうに、藤丸もダ・ヴィンチも大げさだ。


「…問題ない。目立った外傷は治癒済みだ。聖杯もリチャードが回収した」

『こちらでも確認できているよ。すでに帰還レイシフトを始めている、帰還したらすぐに医務室へ』


言われなくてもリチャードがそうするだろう。
ちらりとリチャードを見上げると、ばちりと目が合う。少し驚いてしまうと、リチャードは薄く微笑む。先ほどグレアを放出したときと打って変わって落ち着いた様子に見える。

そこで体が霊子に変換される感覚が始まった。ようやく、カルデアに帰還できる。



コフィンが開き、管制室に戻ってくる。意識が覚醒したが、体の重さやだるさ、思考のおぼつかなさは依然として残っていた。

すぐにリチャードがやってきて唯斗をコフィンから出して抱え上げる。歩けるような状態ではないため、正直助かった。
そこにダ・ヴィンチもやってくる。


「唯斗君!本当にすまない、こんな目に遭わせてしまうなんて…」

「…、珍しいな、そういうの」

「っ、Subドロップか…!軽度とはいえ早急なケアが必要だ」


どうやら唯斗はSubドロップ状態になっているらしい。あれだけ無茶なコマンドをされれば当然か。軽いようなので、そこまで重症ではないだろう。

そこに、リチャードの冷ややかな声が落ちた。


「分かっている。すぐに唯斗を医務室に連れて行って外傷の確認、それが済み次第ケアに入る。回収物はそのあと処理するのでいいな」

「あ、あぁ」


普段とは全く違うその声音は、残酷な側面を持つ王らしいものだった。今ここで反駁すれば斬られる。ダ・ヴィンチは頷くしかなかったし、それが自然な流れだろう。

リチャードはブーツの音を響かせながら唯斗を抱えたまま医務室へ歩き出す。歩幅が広く、最大限急いでくれていた。

医務室に入ると、サンソンとナイチンゲールが迎えてくれるが、ナイチンゲールは唯斗がベッドに横たえられるとカーテンを閉めて、その外に出ていった。
サンソンとリチャードだけがカーテンの内側に残っている。


「事前に管制室から事情は聞いていますので、僕が対応します」

「…ん、ありがとな」


同性が対応した方がいいだろう、という配慮のようだ。
サンソンは唯斗の礼装を脱がせて確認をしていく。殴る蹴るの暴行はなかったため、体の外側に怪我はない。
最後に陰部の確認をされ、サンソンはひとつ頷く。


「さすが、きちんと治癒術式で適切な処理がされています。怪我、はありません」

「…男は妊娠しねぇしな、怪我さえなきゃ、そんな騒ぐ話でもねぇだろ……」


藤丸がこんな目に遭っていれば、恐らく妊娠させられていただろう。そのような事態になれば、藤丸の性格を考える限り、それは致命的な怪我に等しい。藤丸のサーヴァントたちも黙っていない。唯斗が代わりになったことは正しかった。

サンソンは何か言おうとしたが、リチャードをちらりと見て口をつぐむ。そして新しい検査着の上下セットを取り出してリチャードに手渡した。


「…取り急ぎ、僕の仕事はここまでにした方が良さそうです。リチャード王、礼装はここに置いて行ってもらって構いません」

「恩に着る、ムッシュ」


やはり淡々と答えたリチャードは、サンソンがカーテンから出ていったあと、汚れた礼装の代わりに検査着を唯斗に着せてくれる。されるがまま、綺麗な服に袖を通すと、再びリチャードは唯斗を抱え上げた。


「いったん君の部屋に戻ろう」

「…ん、」



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