Dom/Subシリーズ−獅子心王の狂気6


「ここは特異点じゃない、現実に存在する位相の異なる空間だな」

「すごいな、そこまで分かるのか」

「カルデアが慌てるのは、俺の行方が分からず観測できないってことだ。かつ、レイシフトできないなら現代か未来。なら、それは特異点ではなく位相の異なる現実空間だろ」


シバのレンズでは現実は観測できない。シバが観測できない場所にはレイシフトができない。
つまり、ここは現実に現在進行形で存在する位相の違う空間であり、ゆえに、カルデアはここを観測したり乗り込んだりすることができないのだ。マーリンがいるアヴァロンや星の内海が近しい仕組みである。

いや、サーヴァントによってはできないこともないが、藤丸と違い、唯斗のサーヴァントはリチャードだけだ。観測できない場所にいる唯斗を辿るには縁が弱すぎる。


「特異点じゃないから歴史に影響は与えないし、時の流れが存在しないから食事は最低限で済む。二人きりで過ごすにはこれ以上ない場所だろう?」


リチャードはそう嬉しそうに言いながら、唯斗のところまでやってきて抱き締める。
いつもなら安心する腕の中、唯斗はどうしたものかと頭を巡らす緊張状態にあった。

外部からの助けは期待できない。唯斗が自力で脱出するのは、リチャードが許さない。結局のところ、リチャードが心変わりするほかない。

恐らく、これはリチャードの、保護欲求と独占欲求が爆発した結果だ。両方とも強度5度であり、5度は最上級の強さだ。その欲求をフルで開放すると生死に関わることもある。それが今回の一件で暴発した、と見るべきだろう。


「何から守りたいんだよ」

「すべてだ!唯斗に危険を及ぼすもの、軽んじるもの、あるいはそうしたもののリスクを唯斗だけがとる必要がないものだな」

「リスクを俺だけがとる必要がない…?」


言いたいことはなんとなく分かったが、最後の言葉だけがよく分からなかった。リスク許容度の話だろうか。


「カルデアは、唯斗や藤丸を常に危険に晒してきた。特に唯斗は、ほとんど魔術が使えない藤丸に代わって、現地で藤丸を守ってきただろう?それでも、それはグランドオーダー中には仕方のないことだった。生き残った人類が君たちだけだったからだ」

「…、でも今は外の世界が復旧してるから、俺がそんな危険に晒される必要性がない、って言いたいのか」

「そういうことだ!」


確かに、今となっては唯斗たちだけしか世界を救えない、というわけではない。それでも、すぐにそんなことが可能な者もいない。順次蘇生しているマスター候補たちを頼る、ということもあり得るが、旅で培った経験値は何物にも代えがたいものだ。


「そうは言っても、急に俺の代わりが見つかるわけじゃ…」

「だが、唯斗がいる限り唯斗の代わりを探そうとは思わないだろう?君を俺から救い出せないと分かれば、どうあれ代打を探すさ。いや、今回の件でリスク評価も見直されるだろうから、藤丸だけでも問題ないかもしれない」


藤丸さえいればグランドオーダーは成立する、それは唯斗が一番よく分かっていたことだった。その事実に苦しんだこともある。唯斗がいなければ代わりを探すというのは、リチャードの言う通り、今の状況なら不可能ではない。

目線を下げると、リチャードは少し慌てる。


「あぁ、すまない、唯斗がいなくてもいいって話じゃないぞ。カルデアは執念深く唯斗を探すだろうし、唯斗の代わりが務まる人間などいないだろう。だがそれでも、唯斗がこれ以上危険な目に遭うくらいなら、代わりにならないような人間でも代わりに据えるか、唯斗なしでの工夫をしてもらうしかない」


もちろん唯斗が苦しんでいた日々を知っているリチャードは言葉を少し訂正した。唯斗もそれは理解している。なんと返そうか迷っていると、リチャードは言葉を続けた。



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