Dom/Subシリーズ−獅子心王の狂気7


「…藤丸を狙う敵生体は多くいたが、どれも魔術王の手先だったり、悪意を持ったサーヴァントだったりした。だが唯斗を危険な目に遭わせ、傷つけてきたのは、いつだってカルデアだった。グランドオーダーが終わった今、俺はもっと早く、こうして君をカルデアから守るべきだった。いや、カルデアだけじゃない、魔術協会からも」

「リチャードの中では、カルデアも時計塔も敵、ってことなんだな」

「その通りだ!まぁ敵とはまでは言わないが、君から遠ざけるべきものだと思っている。特に魔術協会はそうだ。俺が退去したあと、誰が君を守れる?」


その言葉に息を飲んだ。唯斗にとって、目下最大の懸念は、魔神柱討伐が終わったあとのことだった。いつになるかは決まっていないが、魔術協会による査問会が予定されており、そのときに、時計塔ブラックリストに入っている家柄の唯斗がサーヴァントを使役していた事実は強く糾弾されるだろう。
カルデアは組織自体が審査対象であり、唯斗を守る、というのは難しい。

目の前のことに集中しようと決めて、心の深いところに押し込めていた将来への不安が沸き上がる。
それに気づけないリチャードではなく、そっと抱き締めた。今度こそ、その温もりに安心感で弛緩し、肩に顔を乗せる。
そもそも、唯斗も3度の被保護欲求を持っているSubだ、パートナーのDomにこうも頑強に守られている状況に満たされないわけがない。

同時に、特異点で襲われていたとき、必死に押し殺していた感情も沸き上がる。同じところに蓋をしていたものが溢れてしまったのだ。


「…リチャード、」

「あぁ」

「……こわい、狂った過去よりも、取り戻した未来の方が、ずっと、怖い」

「そうだな」

「…あのときも、怖かった、お前以外に触られたくねぇのに、気持ち悪くて、でも藤丸をあんな目に遭わせるわけにはいかなくて、」


ぎゅっと深く抱き着くと、同じように深く抱き締めてくれる。黙って感情の発露を聞いてくれることが嬉しかった。


「慣れてたんだ、ほんとは、1人でいることも、魔術協会に目ぇつけられることも、軽んじられることも、尊厳を踏みにじられることも、全部、慣れてたのに…!」


カルデアで初めて必要とされて、リチャードとこうして結ばれて、初めてそうした恐怖を知った。傷つけられることなど慣れていたはずなのに、恐怖を感じるようになっていた。

リチャードは唯斗の後頭部を撫でながらつぶやく。


「…君にそう言わせている、君の過去のすべてが憎い。暴力に慣れる必要なんてないし、それを当然だと思う必要もない。だから俺は、唯斗を守りたいんだ。誰も君を傷つけられない、この場所で」


理性の表層では、このままではダメだと警鐘が鳴っている。早くリチャードの考えを改めさせて、カルデアに戻らないといけない。
一方で、リチャードに蓋を開けられ溢れてしまった感情が、心の大部分を占めていた。それをリチャードが言葉と体温で解してくれていて、その甘さに抗えない。

それでもまだ揺らいでいる唯斗に、リチャードはとどめを刺すように耳元で囁いた。


「もう休んでいいんだ、唯斗。俺が守るし、恐怖も不安も俺が取り除く。罪の意識は俺も背負う」

「っ、いい、のか、おれ、もう…」

「あぁ、もう大丈夫だ」


もう未来に怯えなくていいのだろうか。自分がいなくてもいいという事実と未来への不安、振るわれた暴力の記憶などを、押し込んでいなくていいのだろうか。

理性が感情に飲み込まれる。カルデアに戻らないといけないという使命感は、戻りたくないという感情との天秤に負け、見えなくなっていく。


「…リチャード……」

「あぁ」

「……忘れさせてほしい、昨日のことも、未来のことも」

「任せてくれ」


自分でそう言葉にしたことが、最後のトリガーとなった。リチャードはDom性を解放し、もともと強い保護欲求の発露で被保護欲求が満たされて過ぎてスペース寸前だった唯斗は、すぐにくらりと酔ったようになってしまう。



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