知らぬが仏−2


大声で騒いでいる(内二人はただ声がでかいだけ)者たちは全員αだ。αが5人も同じ空間に集まれば、もしそこにΩがいようものならαの支配フェロモンや攻撃フェロモンによって立つことすらできなくなってしまうだろう。
そして唯斗はΩだ。しかし、そんなことにはならないし、むしろ唯斗が本気で黙らせようと思えばそれができてしまう。

一見、それは良いことのように思えるが、そんな複雑な性に生まれてしまったことことが、様々な唯斗に降りかかる厄災の元になっているともいえた。


そんな唯斗の第二性差は、「変異Ω」というものである。数十億人に1人と言われる極めて稀有な存在で、変異Ωは歴史にすら影響を与えたともいわれるほどの特殊性を持つ。分かっていることはほとんどなく、変異Ωが発見されたというニュースは世界中を駆け巡ったほどだし、唯斗も多くの研究機関に招かれたものだ。

変異Ωの特徴としては、同時に複数のαと番になれる、αからは番を解消できないが変異Ωからはできる、隷属誘引物質(隷属フェロモン)を分泌してαを隷属させる、βにも誘惑フェロモンをはっきり作用させることなどがある。

また、一部のΩに見られる生理現象である「巣作り」というαの衣服などを集めてその中に収まろうとする発情期の行動も、変異Ωは起こさず、むしろその周りにいるαが起こしてしまう。

ここに押しかけた3人の行動もそれだった。


「フン、貴様らには理解できんだろうよ。この我が直接采配したニューヨークのアッパーイーストサイドに屹立する高層マンションがいかに優れているか。所詮、繁栄の時代が終わった国だからな」


偉そうにタブレットでニューヨークの高層マンションを見せびらかすのは、米国の不動産王であり、米国最大の不動産会社「バベルタワーズ」を経営する男、ギルガメッシュ・エレクだ。
英国の石油会社「clam」を経営していたユダヤ系一族の家系であり、父はかつて英領湾岸とイラク王国の利権を握っていた。家族で英国の不況に嫌気がさして米国に移住したのちギルガメッシュが生まれた。
ロイヤル・ホラント・クラムとして会社が再編されてからは、ギルガメッシュは自ら資本を引き受けて米国で不動産会社バベルタワーズを立ち上げ大成功した。セントラルパーク近くに本社ビルのバベルタワーを所有し、その最上階に暮らしているという。


「まったく、これだから米国の者は品がない。余の古式ゆかしい古代エジプトを彷彿とさせつつ近代的デザインを融合した新進気鋭のホテルを見よ、この最上階のスイートルームを唯斗にくれてやるぞ?」


続いてタブレットに豪華絢爛なホテルの写真を表示しているのはオジマンディアス・テーバイ、エジプトのギリシア系豪族の家系に生まれた生粋の金持ちだ。時代が時代なら王族である。
地中海とスエズ運河、紅海の海運会社やエジプトの観光会社、ホテル、不動産、スーダンの資源会社などを手掛ける大企業「サンエルハガル」の次期社長でもあるオジマンディアスは、まさに現代を生きるファラオのような存在だった。


「そんな人目につくものを唯斗に用意するとは、耄碌するには早いんじゃないのかい。これだけ世間に騒がれてしまっているんだ、唯斗の心労を労わってあげるべきだろう」


そう言って、購入したというカリブ海の島の地図をちゃぶ台に置いたのはアーサー・ペンドラゴン、英国最大の企業「キャメロットグループ」のCEOだ。世界的な銀行や証券会社、保険会社のほか、製薬会社やコンサルティング会社など手広く事業を展開している若きCEOである。
見た目年齢が異常なほど若く、隣に控えるグループ企業の役員であり友人だというガウェイン・オークニー、ランスロット・ベンウィックの方が年上に見えるほどだ。

ギルガメッシュ、オジマンディアス、アーサーそれぞれがαの本能として、変異Ωである唯斗に対して巣作りを行い、その結果、ニューヨークに高層マンションが建ち、アレクサンドリアに高級ホテルが増え、そしてカリブの島が個人の所有となった。この事実は、何気なく日本で生きていた唯斗にとっては受け止めきれない青天の霹靂だ。
そもそも自分が変異Ωということすら信じられないのに、20代前半にして、世界に名だたる金持ちたちを侍らせてしまっているのである。



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