知らぬが仏−3
初めてこの3人に出会ったのは、唯斗が第二性差検診で変異Ωだと診断された事実が金持ちたちの間で明らかになってからすぐのことだった。
日本をはじめ先進国では、第二性差検診は11歳で行われる。唯斗は父の実家があるフランスでそれを受けたが、その際には唯斗の結果はただのΩだった。αもΩも激減した現代ではそれだけで驚きをもって受け止められたものだ。
その後、Ωとして起こるはずの事象が起こらなかったことで医者が不審に思い、大学入学時の検診で変異Ωを示す兆候が表れて、大学病院での診断によって確定した。関係者にはひどく驚愕されたが、家族と暮らしてなかった唯斗の生活は特に変わらないはずだった。
母は唯斗を生んだことで亡くなってしまい、父はもう一つの故郷であるフランスにいる。両親はともにβだったが、フランスの祖父はΩだったと聞いている。いずれにせよ、なぜ遺伝子変異が起こるのかすら分かっていないため、血筋のことは不明である。
日本の人口における第二性差の人口比は、βが94%とされており、αが4%、Ωが2%という極めて偏った比率となっている。世界の富裕な国数十か国でも同じような傾向が出ており、最もαとΩの人口が多い中国でも、αがやっと8%でΩが5%とされる。
これは第二次世界大戦やそれに続く紛争において、αの人口を増やして戦争を有利に進めるべくΩの人権が著しく制限されたためで、大半の国でΩが同じ苦痛を子供に味合わせまいと出産を拒むようになったからだ。
しかしそれでもなお、αは同じαを増やそうとした。それは、第二性差において、αは身体的にも能力的にも非常に優れたパフォーマンスを持っており、生まれながらに優等人種であるからだ。その分かりやすいαの優等さと、反してΩの劣性が際立ったことで、差別が激しくなった。
αは依然として確実にαを生むことができるΩを探している。それは番を探す本能でもあると専門家は指摘する。
αはαとΩの間でしか生まれないため、金持ちのαは積極的にΩを探しているが、Ωはそんな金持ちに見つかればどんな扱いを受けるか分からないため、素性を隠す。一方で、本能も相まって何としても番を見つけようとするαはネットワークを構築し、各国で本来秘匿されている第二性差検診の結果が流出する事態となっていた。
唯斗もΩであることはすでに情報として流れていたため、中学、高校と初対面のαに迫られたことは何度もあった。多くはそれなりに年齢の重ねた者であったこともあり、唯斗にとってはαは不愉快な存在でしかなかったし、唯斗に迫るαの中高年を見てクラスメイトたちも引いていた。
もはや、αすらもβからすれば差別対象となりつつあったのだ。その動物的な姿は人類が築き上げた理性の文明に逆らうからだ。
そうして、唯斗が変異Ωという、普通のΩと違って複数の番関係が持てる存在であるということは世界中の金持ちの間に広まり、すぐにこの3人が日本にやってきた。
あのときのことは唯斗にとって忘れられない瞬間である。もちろん、悪い意味だ。
「ほぉ、Ωはαに媚びるため見た目がよいと聞くが、それにしてもまた見た目の良い雑種だ。よし、我の番に相応しい」と言って、大学の正門に長いリムジンでやってきた典型的な金持ちがギルガメッシュだった。学生たちはそのあからさまな金持ちぶりと、端正な顔立ちに色めきだっていたが、唯斗にとってはいきなりこんなことを言ってきた不審者にほかならない。
「貴様が変異Ωか。ふむ、悪くない。余の番となること特に赦してやろう」と何様かという態度だったのはオジマンディアスで、自家用ゴーイング747を羽田に乗り付けて唯斗を誘拐しようとしてきた。ギルガメッシュがそれを阻止しようとして危うく羽田の国際線ターミナルで銃撃戦が起こるところだった。
そして、「突然ですまない。だが僕と一緒に来てくれないだろうか」と一見すれば丁寧な物言いながらNoという選択肢を考慮せず押し入ってきたのがアーサーだ。勝手に唯斗のビザを手配して英国の国籍を申請しようとまでしていたあたり、一番たちが悪かった。