運命の風−3
翌日、昼休みにコンビニのパンを持って、いつも通り拉致されるように長可と屋上に向かう。なんでも、屋上はしょっちゅう長可がいることから縄張りだと認識されているらしく、誰も近寄らない。
屋上の床に胡坐をかいて座る長可の隣に座って、ちらりと横顔を見上げる。赤い髪を後ろに流し、右目だけ前髪に若干隠れるように前に下ろしている。大柄な体格は身長190センチを超えるもので、精悍な顔は男前だが切れ長の目は鋭く恐怖を抱かせる。
すると、長可はこちらに視線を下ろし、ニヤリと笑った。
「…見過ぎ」
「っ、」
「どうした?番になるかァ?」
長可はそう言って唯斗を抱き寄せてきて、唯斗はその力の強さに抗えず、長可の胸板に飛び込む形になった。固い胸筋に鼻を打って痛みが走る。
「いって…」
「はは、わりぃな。でも、そんな見つめられたら食っちまいたくなっても仕方ねぇよな」
そんなことを言いながら首筋を撫でられる。ぞくぞくとしたものが背筋を駆けて、声が漏れそうになるのを必死で抑えた。
「っ、長可、」
「ん?」
唯斗は長可の腕の中で姿勢を整え、その長い足の間に収まるように座り直した。横向きに抱きしめられるような形となり、長可の胸板に寄りかからせられる。
「…俺は、あんたのこと、あんま知らない」
「番になってからでもいいんじゃね」
「俺は、理由が何であれ向き合ってくれたあんたに、俺も向き合おうと思った」
唯斗は言いたかったことを言って、長可の顔を見上げる。こちらを至近距離で見下ろす長可は珍しく目を丸くしていた。
「どうしたいきなり」
「…別に。ただ、俺が他のヤツと同じ程度の認識でしか長可のことを知らないってのは、よくねぇだろって思って。だから、好きな食べ物から教えろ」
「……ふはは、マジか、おもしれーなお前」
長可は豪快に笑うと、唯斗をより抱き締めてきた。苦しくて慌てて太い腕を叩くとすぐ緩められるが、拘束はしっかりとしている。
「お前は好きな食いモンねぇのに聞くのな」
「…悪いか」
「いや?悪くねェ。誰にもそんなん聞かれたことねェから、面白くなっちまった。そうだな、和菓子だな」
「……え、和菓子?」
「おう。上抹茶とな」
「…練り切りとか一口で食ってそう」
「んな下品な真似しねえって」
意外な回答に驚く。どうやら長可はいいところの坊ちゃんらしく、わりと金持ちなのだそうだ。不良にしては仕草が丁寧だとは思っていたが、育ちはいいらしい。
「なんでよく喧嘩してんの」
「喧嘩売られっから」
「自分からは売らないんだ」
「いや、売るし買う」
「怪我はすんなよ」
よく校外で喧嘩しては怪我をしている。本人はあまり気にしていないようだったが、見ているこちらが痛みを感じそうに思えてしまう。
そして喧嘩する理由はやはり単に暴れたいだけらしい。
「喧嘩すんなとは言わねぇのな」
「言って欲しいなら言うけど」
「どっちでもいい。まぁでも、口うるせぇのは嫌だな」
「もし仮に俺たちが番になったって、あんたはあんたで俺は俺だ。好きなことすりゃいいだろ。でも怪我されんのはいい気分じゃない」
「可愛いこと言うな、犯すぞ」
長可は耳元で低くそう言ってきて、思わず唯斗はびくりと震えて長可の体に縋るようにしがみついてしまった。
「っ、あんたなぁ…!」
「ふはは、これでもすげぇ我慢してやってんだ、感謝しろよ。俺の理性が鋼じゃなきゃとっくに食ってる」
「…っ、」
「それにな、唯斗。俺もそろそろ限界だからな。覚悟決めろ、無理なら一生会わねぇ」
「………無理やり番にはしないのな」
「アホ、犯罪まで手ェ染めるつもりはねぇっつの」
変なところで常識人のようなことを言う長可だが、すでにいろいろと決まりを破っている。しかしそのラインは超えないでいてくれるようだ。
やはりそうやって長可があくまで誠実に接してくれるのであれば、唯斗も覚悟を決めるべきだろう。