長編番外編−ローマの休日
永続狂気帝国セプテムI
ローマでゆっくりしているアーサーと主
ネロや立香たちがガリア遠征に赴いている間、ローマはまさに平和で、最初の襲撃以来敵影がなかった。
暇を極めた末に、ネロのお許しの元でローマ市内を観光してよいと言われ、唯斗とアーサーはフォルム・ロマヌム周辺を散歩して過ごし、日暮れには立香たちとの報告も終えた。
これでいよいよやることはなくなり、夜になってしまえばあとは夕食と睡眠だけとなる。
アーサーがテーブルに夕飯を並べてくれているのをベッドに座って見ながら、本当に何もしなかったな、と振り返る。
「…マジで休日だったな」
「たまにはこういう日があってもいいだろう、藤丸君たちには少し申し訳ないけれど」
まさにローマの休日だ。あの映画に出てくるローマの遺跡よりネロ帝の時代の方が古いのだが。
「準備できたよ」
「毎度悪いな」
「いいって」
毎回、きちんと用意してくれるアーサーに、世話役の兵士は恐縮していたが、アーサー曰く好きでやっていることらしい。そんなブリテン王がいてたまるか、と正直思う。
椅子に座ると、いつも豪勢な夕飯が今晩も並んでおり、唯斗はパンから食べ始める。
しばらくの間、唯斗が食べる姿をワインと一緒に楽しむように見ているアーサーは、ふと唯斗の食べ進む様子を見て首をかしげる。
もう唯斗は食後のフルーツをあらかた食べて、食事を終えようとしていた。
「ここ二日ほどはよく食べるね。最初に夕飯をこの部屋でとったときは小食すぎると思ったけれど、マシになった。まぁ、それでも小食なんだけど」
「あー…まぁ、あの日は初日にしては戦いまくって疲れてたのもあるけど……」
あのときのことを思い出して、向かいに座るアーサーがワインを傾ける姿が同じだと気づく。食べられなくて当然だ。
「…あのときは、アーサーといろいろ話してただろ。相手がかつて俺を助けてくれたアーサーであっても、俺は自分の考えをはっきり伝えるつもりだったから、幻滅される覚悟で話してた」
「マスター…」
アーサーもあの夜のことを思い出したのか、銀のグラスをテーブルに置く。
今晩の唯斗はきちんとパンと肉、いくらかのフルーツを食べており、スープを空にしたスプーンを器に立てかけた。
「…たとえアーサーでも折れるつもりはなかった。でも、やっぱ、嫌だったし、怖かった。お前に見限られるのが。だから、話すうちにどんどん食欲なくなって…」
「……ごめんよ、責めるつもりではなかったんだ。表情をまったく変えずに話していたから、感情を動かさずに話していたのかと…」
「そのレベルで俺のメンタルが強いと思ったなら、ちょっと過大評価だな。俺はそこまで、強くなりきれなかった。少なくともあのときは」
「いや、それでいい。それが当然だ。すまない、君よりも遥かに長く生きたくせに、たかだか15そこらの君の表情に気付けないなんて」
正面でアーサーはやはり真摯な表情で謝る。アーサーは何も悪くないだろうに、大人として、未熟な部分を誤魔化す唯斗の表情に気付けなかったことを悔いた。
「別に謝る必要はないって。それより、明日はローマから離れた場所まで行くんだし、早めに寝る」
「うん、分かった」
これで話は終わりだと言外に言って、唯斗は寝る支度に入る。第一特異点では野宿が基本だったため、非常に恵まれている環境だ。
一通り準備も終えて、あとは寝台に横たわるだけ、となったときだった。
おもむろに、ベッドにアーサーも乗り上がってきたのだ。
「…何してんだ」
「だってこの部屋は冷えるだろう?昨晩もこうしたんだし」
「あのなぁ…別にそういうのはいいって」
そう、初日に一緒に寝てから、昨晩もアーサーはなんやかんや言って添い寝する形をとってきた。眠さに負けて絆されてしまっていたが、今晩も、となるといよいよ言わなければならない。
「サーヴァントだからってそこまでする必要ねぇだろ」
「別にサーヴァントだからというわけではないさ。こうしたいからしている、それだけだよ」
「酔狂すぎんだろ…」
「さぁほら、明日は早いんだろう?」
サーヴァントは眠る必要がないため、アーサーは起きていることになる。完全に唯斗の湯たんぽ代わりだ。
ベッドに横たわり、空いたスペースをぽんぽんと叩いて促すアーサーは引く気がないようで、面倒臭くなった唯斗はそこに横になる。
当然のようにアーサーは腕を差し出して腕枕の体勢になるよう強制される。正直、枕としては腕というものの性能はあまり良くない。普通に枕で寝たい、そんな感情はあるが、それすら面倒だった。
なんだかんだ、すぐに「まあいいか」という思考になってしまうのは今も健在で、そんな妥協ができない事態が続いていただけであり、その余裕があればすぐに面倒臭がってしまう。
何よりも、結局こうしてアーサーに抱きしめられて眠ることが心地よいのも確かで、この温もりを手放す必要はないように感じてしまっているのを否めなかった。