長編番外編−頼れる人


「太陽王と元機械人間」後
ナイチンゲールにビビる主とサンソン


オジマンディアスの一件でしこたまサンソンに説教されたあと、ダ・ヴィンチによって自衛能力の強化を命じられた唯斗は、体の動かし方などをディルムッドに習っていた。
その実践を兼ねて小特異点へのレイシフトを終えた唯斗だったが、戦闘を終えて油断したところで、疲れから濡れた地面に滑って怪我をするという些末なミスをしてしまった。

支えられなかったことを同行していたディルムッドとサンソンに詫びられたが、謝られる方が情けない。唯斗は特異点が修正される前にカルデアに戻ることを優先し、怪我をそのままにカルデアに帰還した。


「マスター、医務室までお連れします」

「大丈夫、自分でなんとかする」

「ディルムッド殿、レイシフト後の必須検査もある、僕がまとめて対応しておくよ」

「…承知しました。次はこのようなことがないよう、このディルムッド、たとえどんなぬかるんだ地面でもマスターが転ばないよう配慮いたします」

「やめてくれ…」


恥ずかしさで顔を覆いながらディルムッドに断りつつ、「転ばないよう体の使い方を引き続き指導してくれ」と返せば、ようやくディルムッドは頷いて先に自室に戻っていった。

コフィンの前に残されたサンソンと唯斗は、そのまま医務室に向かおうとしたが、そこに突然、スライドする扉も待たずに突入してくる赤い軍医服が飛び込んできた。


「ここに患者の気配がしたので馳せ参じました。捻挫ですね、臀部に軽い裂傷もあるようです。大丈夫、切断してでも治します」

「やっべ」


召喚されたばかりのナイチンゲールだ。サンソンとともに、多忙なロマニに代わって医務室で対応することも多いサーヴァントである。

カルデアの衛生環境の抜本的改善のために、あちこちでサーヴァントたちと争いつつ掃除して回っていることもあった。また、喫煙者を厳しく取り締まり、人間たち、特に成長期のマスター二人のためにも禁煙するよう発砲している。

その処理は痛いと評判で、不衛生なものを洗浄するために消毒液でびしょ濡れにしてくるのも不評だ。

特に今、唯斗の体は切り傷も多いし、絶対に染みる。捻挫の治療も痛そうだ。


「まずは不衛生な傷口を洗浄します」

「な、ナイチンゲール、大丈夫だ、サンソンがいるし」

「関係ありません、やるべきことをやるべき者がなすのみです」


話が分かる方とはいえバーサーカーだ、やはりこちらの意見など聞いてはいない。

さすがに痛いのは嫌だと、唯斗は思わずサンソンに抱き着いた。こちらにツカツカとブーツの音を鳴らしながら接近する血濡れの天使から隠れるようにして、コートの中に入りこむように深く抱き着く形になっている。


「サンソン、頼む…!」

「マスター…大丈夫、お任せください」


サンソンは耳元で優しくそう言うと、唯斗を隠す様にコートごと抱き締めてナイチンゲールと対峙した。


「レディ、悪いが彼は僕のマスターだ。治療は僕に任せてもらいたい」

「誰がやっても同じでしょう」

「怪我を治すだけが治療じゃない。予防するところまでが仕事だろう。予防するには原因の検証も必要だ。そのためにはサーヴァントである僕が適任だと言える」

「……それは一理ありますが」

「何よりも、ナイチンゲール、あなたに譲れないものがあるように、僕にも絶対に譲れないものがある。今この世界で最も大切な人であるマスターを、僕は譲るつもりはない」


ぐっと力強く抱き締めてくれるサンソンの腕の中は、コートに包まれていることもあってひどく落ち着いた。滔々と語る声も低く静かだが、しかし強い意志も感じる。

それにナイチンゲールも折れたらしい、ため息とともに「分かりました」と応じた。


「あなたの言い分も尤もです。合理的ですし、資格のある医者ではないにせよ、あなたは近代的かつ合理的な医療で人を救った先駆者でもある。そのあなたが譲れないと言うのなら、これ以上は無粋でしょう。ムッシュ・ド・パリ、マスター・唯斗のことは一任しますが、あなたが動けないときは私が処置します」

「あぁ、そのときは任せたよ」


ナイチンゲールは天使らしく微笑んで、またツカツカと歩いてその場を後にした。唯斗はほっと息をつく。


「…ありがとな、サンソン。助かった」

「当然のことを言ったまでです。あなたを治療するのは僕の特権だ。僕は医者ではありませんが、あなたを治療できるということだけで、生前の知識に感謝しています。さあ、行きましょう」


流れるように腰に手を回してエスコートするように唯斗を支える。軽度の捻挫のため歩けることを尊重してくれていた。

常にアーサーやギルガメッシュのような錚々たるサーヴァントたちの中で控えめにしているサンソンだが、唯斗にとってはれっきとした頼れるサーヴァントなのである。



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