長編番外編−ガレット・デ・ロワ2
週末、食堂の一角のテーブルにて、エミヤがガレット・デ・ロワを真ん中に鎮座させると、待っていたサーヴァントたちから歓声が上がった。
集まっているのは唯斗のほか、立香、マシュ、ナーサリー、ジャックと、マリー、サンソン、デオンである。
普段のお茶会ならアマデウスもいるが、子供たちもいるということで、「僕は教育によろしくない言動をしてしまいそうだから」と固辞したらしい。マリーもそれには納得したようで、ちょうど8人という切り分けやすい人数になった。
「さすがエミヤさん、宮廷で食べたときを思い出すわ!」
「王妃にそう言っていただけるとは光栄だ。私は仕事がある、切り分けるのはブーディカに頼んでいる」
「はいは〜い、あたしが切り分けてあげるから」
ガレット・デ・ロワを運んできたエミヤに代わり、ブーディカが包丁を持つ。エミヤは厨房に戻った。ブーディカは包丁を持ちつつ、「それにしても」とガレットを眺めた。
「なんだかサートゥルナーリア祭を思い出すわね。ひょっとしてその影響を受けているのかしら?」
「あぁ、一般的にはそう言われてるな」
このガレットの風習は、古代ローマのサートゥルナーリアという祭にまで遡るとされる。
農耕神への祭事であったサートゥルナーリアだが、この祭の期間中、帝国中が乱痴気騒ぎに酔いしれて、奴隷は表面的な主人との立場の逆転を楽しんだ。これは古代ローマの奴隷が、近代の奴隷とは違ってある程度人格を尊重された職業奴隷であったため、そうした主従関係の逆転というところに面白みを見出していたことによる。
「サートゥルナーリアの期間を短くしようとした皇帝に対して、ローマでは反乱が起こるほどこの祭は盛り上がってたらしいわ。ブリテンにいたあたしですら聞き及んでるもの」
それこそカリギュラなどは、サートゥルナーリアによる治安悪化と経済のダメージを防ごうと開催期間を短縮しようとしたが、市民の徹底的な反発にあって諦めている。
その後、時代を経て近代に入ってから、フランスではブルボン朝開始とともにこのガレット・デ・ロワの風習が定着するが、その仕様はこのサートゥルナーリアの影響を受けているとされる。もともとサートゥルナーリアの影響を受けた何らかの催事に公現祭が合わさったとされるが、そのあたりの歴史はまだ研究中である。
そのため、ランスロットやアストルフォのような中世のフランス英霊はこの風習を知らない。
「さぁ、切り分けましょうか。ジャックとナーサリーはテーブルの下に隠れて。切り分けていくから、みんなを指名するのよ」
「はーい」
ナーサリーとジャックは楽しそうにテーブルの下にもぐる。それを母然りとした笑顔で見届けてから、ブーディカはナイフを入れた。
「じゃあまず最初のピースは誰にする?ジャックから決めて」
「じゃあね、おかあさん」
「はい、マスター」
最初のピースは立香が指名された。その後も、ジャックとナーサリーで順番に指名していき、8人分が決まった。
「今回は特別に、フェーヴは2つ入っているそうよ」
ブーディカは最後にそう言ってから、自身も厨房に戻っていった。残された8人で、いよいよ実食となる。
「じゃあ食べようか」
やはりというか立香が切り出して、全員でフォークを手に取って食べ始める。
「本当に懐かしい。現代にも続いているとは、感慨深い」
デオンは凛とした表情を緩め、優雅な所作で小さくパイを切り分ける。その隣に座るマリーも、紅茶を優雅に飲みながら、「ええ、本当に宮廷を思い出すわ」とほほ笑んだ。
「新年なんだな、という感じがしますね、マスター」
「そうだな」
唯斗の左隣に座るサンソンも食べ進めながらしみじみとする。料理の性質こそ違えど、この感じはやはり日本のおせちに相当する気がした。