長編番外編−ガレット・デ・ロワ3
「とっても美味しいわ!ジャック、フェーヴは入っていた?」
「まだわからない、わたしたちのところにはないのかな。ナーサリーは?」
「私もまだ見つけられていないの」
ナーサリーとジャックは、自分のピースにフェーヴが入っているかドキドキしながら食べている。それを見守りながら食べていると、唯斗のフォークが固いものに当たった。恐る恐る見てみれば、陶器の小さな人形が入っている。
誤飲を防ぐため小さく食べ進めるのが基本の料理だが、早くに見つけられてよかった。
すると、右側に座る立香も動きを止めた。横をちらりと見遣ると、出てきたフェーヴを見て逡巡している。すぐに、唯斗は肘でつついて合図した。
立香の隣にいるマシュは声を上げようとしたが、慌てて立香がそれを止めさせる。唯斗も咳払いをすると、それだけで、全員が事態を理解した。
さっと唯斗がマリーとサンソンに目配せすると、二人も軽くうなずいて、子供たちに声をかける。
「二人とも、フェーヴという言葉の元の意味をご存知かしら?」
本来はそら豆を意味するfèveは、19世紀に陶器の人形に変わったとされる。そら豆はその姿がおくるみに包まれる赤子、すなわちシュトレンのようにイエスの幼い姿を連想させる食べ物とされたことから、この時期に好んで使われる。もともとは、ガレットに入っていたのもそら豆だった。
そうやってマリーたちが機転を利かせてナーサリーとジャックの気をそらしているうちに、唯斗は左手の平に魔力を込めて、自分と立香のガレットに入っているフェーヴに意識を集中させる。
「ヴァズィ」
そうして小声で唱えれば、召喚術が発動し、転移したフェーヴはそれぞれナーサリーとジャックのピースの中に入った。わずかに揺れたガレットには気づかず、二人ともマリーにフェーヴの謂れを聞いて「へぇ〜」とよくわかっていないような声を出した。
唯斗の声を当然聞いていたマリーは話を切り上げ、サンソンも「フェーヴが入っているといいね」と優しく言って食べるよう促した。
そうして、それからすぐに二人ともフェーヴを発見して喜ぶ声を上げる。それに思わずホッとした唯斗と立香に、向かいに座るマリーとデオンも小さく笑った。
立香とマシュが二人に紙製の王冠を被せてやると、二人は喜んではしゃぐ。それを見て、マリーは軽く手を打った。
「それじゃあ、王様を選びましょう。二人とも、相手役の王様を選んでくださいな」
「わたしたちはおかあさんがいい!」
すぐに、ジャックは立香に抱き着いた。椅子に座りながらジャックを受け止めた立香は「ありがとう」と笑う。ナーサリーは一瞬それに羨ましそうにしたが、実は結構大人びているナーサリーは、我慢していることを感じさせない笑顔で唯斗のところに来た。
「じゃあ、もう一人のマスターがいいわ。唯斗、王様になってくれる?」
いじらしい様子に、さすがの唯斗も頭を撫でてやりたくなる。いつもの帽子の代わりに王冠を被っているためそうしなかったが、代わりに、唯斗は椅子から降りてナーサリーの前に跪く。そして、その手を取って愛らしい顔を見つめた。
「My best pleasure, your majesty」
「…ッ!」
「そういうとこだよ唯斗…」
ナーサリーはなぜか顔を真っ赤にして息を飲みつつ、唯斗の手を握り返す。英国のサーヴァントであるため英語で返しただけだったが、それを見ていた立香が呆れたように言ったため、どういうことかと振り返って見上げる。
「なんか変なこと言ったか、俺」
「無自覚こわぁ…どう思うデオン」
「時代が違えば私の部下として重宝しただろう、惜しいものだ」
「デオンと唯斗が竜騎兵だったら、なんだかそれだけで国が傾いてしまいそうだわ!」
実際に国を傾けた(とされる)マリーが言うとなんだかいらぬ含蓄あり、デオンやサンソンは苦笑するしかない。
「唯斗さんはまさに絵本の中の王子様のようでした!そうですよね、ナーサリーさん」
「ええ、本当に、びっくりしたのだわ…!でもとっても嬉しい、ありがとう唯斗!」
マシュの言葉に、まさに童話そのものであるナーサリーは嬉しそうにする。とにもかくにも、喜んでもらえたのなら何よりだ。
「こちらこそ。ほら、残りも食べ終わっておけよ」
「はーい!」
ナーサリーとジャックは残った分を食べに席に戻る。唯斗も着席してから、隣の立香とサンソンに向けて話しかける。
「にしても、付き合ってくれてありがとな、サンソン、立香。正直、一度食べてみたかっただけだから、ここまでちゃんとした形じゃなくてもいいって思ってたけど。きっと、フランスの家で、親戚たちが集まってこうして食ってるのを見てたとき、俺は、寂しかったんだな…団欒に入れて欲しかっただけで、ただ食べてみたかっただけじゃなかったんだ。今やっと気づくあたり、自分のことでも分からねぇもんだな」
別にガレットが食べたかったわけではなかった。あのとき、唯斗は、ただ、あの楽しそうな輪の中に入れて欲しかっただけだったのだろう。
きっとサンソンもエミヤも、あの夢でのことから、唯斗のこうした本当の無意識の願いを理解していた。それで、こうして形を整えてくれたのだ。
「あなたのためなら当然です、マスター」
「唯斗はもっと我儘言っていいと思うよ」
相変わらず優しい言葉をくれる二人に、唯斗は初めて、希望を口にしてよかったと思った。