長編番外編−一番槍


北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI
やきもちを妬くディルムッド


第五特異点の探索に向けて、立香と分かれての行動を見越してライダークラスの召喚を行い、アキレウスをカルデアに呼び出した翌日のことだった。


「マスター!」

「うお…なんだディルムッド」


廊下をアキレウスと歩いていると、ディルムッドが駆け寄ってきた。鬼気迫る様子に何事かと身構えると、ディルムッドは唯斗の正面に立ち止まり、唯斗の両手を取って握りしめた。硬く節くれだった大きな手に包まれ、目を瞬かせる。


「槍兵は私だけなのではなかったのですか!?」

「いや…ランサークラスはお前だけだけど…」


しかしディルムッドは唯斗の隣に立つアキレウスを見遣る。ほぼ同じ身長と体格、体の厚みだけアキレウスの方が勝って見えるが、美丈夫二人に挟まれている状況である。


「俺はライダーだぞ、ケルトの高名な槍兵。確か、ディルムッド・オディナっつったか」

「…あぁ、古代ギリシアの大英雄、アキレウス。俺はディルムッド・オディナ、フィオナ騎士団の一番槍であり、マスターの一番槍でもある」

「よく知ってるぜ、クー・フーリン、フィン・マックールに並んで、ケルトでも最も有名な槍兵として三本の指に入るだろう」


アキレウスは手放しに称賛するが、ディルムッドは押し黙る。そして、手を握ったままの唯斗に視線を戻した。


「…我が主よ、あなたなら当然、アキレウスもまた世界的に有名な槍兵であるとご存知のはず。此度の現界こそライダークラスでしょうが、その手に持つ槍による戦いもまた、極めて優れた戦士。我が槍では不足でしたか」

「…いや、つか、お前らの時代はむしろ槍兵が大多数だろ…アーサーだって聖剣だけじゃなく聖槍も使う人物だったわけだし」

「それは…そうですが…」


当然銃はなく、弓矢だって中距離射撃の精度すら高くなかった時代にあって、槍は確実にリーチを伸ばして殺傷できる主力武器であり、槍兵こそ戦いの中心だった。
それは、戦いの勝ち負けが生死でもって決定される古代において、殺傷能力こそ重要だったためだ。

中世の騎士道の時代に入ると、欧州文明においては、戦いの勝敗に命は関わらなくなり、剣術とともにより戦略的になっていく。そして近世、近代と経て、技術革新と社会変革によって国家間の戦いという大局的なものに変わっていった。
槍から剣、銃と戦いの武器は変遷していくが、槍の時代が最も長かったといってもいい。だから、ランサークラスに適正のある人物が多いのは当然のことなのだ。

いや、それは別としてもだ。


「あのな、ディルムッド。確かにアキレウスは槍を使うが、俺がアキレウスに期待してるのは機動力だ。その機動力を生かした遊撃や攪乱、遠方での多方面戦闘が作戦に期待される。俺がディルムッドに託しているのは、二本の槍による中近距離レンジでの戦闘をなるべく俺のそばでやってもらって、俺を守りながら敵を減らすことだ。役割が全然違う。アキレウスに至近距離で戦われたら巻き込まれかねない」

「それは道理だな」


軽くアキレウスは笑う。その目には、ディルムッドのあまりに真摯な様子に興味深そうにしているのが見えた。まだ出会って二日目であるが、唯斗がケルトの高名な槍兵にここまで言い募られていることに関心があるのだろう。


「胸を張って顔を上げろ、俺の槍兵(ランサー)

「ッ!」


唯斗は手を離して、ディルムッドの頬にそっと触れる。身長差から、ほんの少しだけ踵を浮かせる唯斗を、正面から軽く抱きしめてきた。


「たとえこの先、お前以外のランサーが召喚されたとしても。俺はランサーを頼るんじゃなくて、ディルムッドを頼るんだ。意味、分かるな」

「っ!、ええ…もちろんです、我が主よ」


サーヴァントとして、ただまっすぐマスターである唯斗のために戦い、忠義を尽くそうと努め、たまに空回ってしまうディルムッドが、唯斗には大切なサーヴァントだった。


「何を見せられてんだ俺は」


そして、そんなアキレウスの呆れた声に、ようやくディルムッドは少し気恥ずかしそうにしたのだった。



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