長編番外編−些細な夜の大英雄
神聖円卓領域キャメロットII
構いたがるアーラシュ
東の村に着いて数日が経ち、立香やマシュ、ベディヴィエールも狩りに混ざるようになった。人数が多いこともあって、あまりサーヴァントをカルデアから呼び出すことはしていない。
ワイバーンなど竜種が出たら、立香がジークフリートなどを呼び出すことがあったが、基本的には今いるメンバーで事足りる。
唯斗もアーラシュとともに戦うだけで十分だったため、特にサーヴァントの召喚はしておらず、たまにディルムッドを呼び出すくらいだった。
そうしてこの日も狩りを終えて、日が沈んだ頃に村に戻り、夕食を食べてから休む時間となる。
唯斗が錬成した水によって体を洗うことはできるが、お湯が恋しくなってしまうのも仕方ないと思う。
「ひっくし、」
「お、どうしたマスター」
村の空き家に宛てがわれた寝室は、贅沢にも1人部屋となっており、立香は隣の部屋、マシュも向かいの部屋にいる。部屋の大きさは狭いものではあるが、プライベートを確保してくれたハサンには頭が上がらない。
そんな部屋でくしゃみをしたところに、ちょうどアーラシュが部屋に入ってきた。
「さっきまで水浴びてた。さすがに日が沈むと一気に気温下がるのは慣れないな」
「確かにな、砂漠は一日に四季があるって言うくらいだし、堪えるだろう」
アーラシュは部屋に入ってくると、ベッドのそばにある小さなテーブルに皿を置く。中には乾燥した木の実が見えた。
「それ、ナツメヤシか?」
「そう。こっちじゃダクルって言う。命の実とかあだ名は多いな」
「カロリー爆弾だろ、確か」
中東で広く食べられている主食のひとつがナツメヤシ、英語でデーツと呼ばれる木の実だ。乾燥したものでも100グラムで270キロカロリーあるため、貴重なエネルギー源として重宝されてきた。アラビア語ではダクルと呼ぶ。
甘く、常温でも乾燥していれば日持ちするものだ。
「育ち盛りなんだから、きちんとエネルギーはとるようにな」
「ありが、ッくし…!」
また続けくしゃみをしたため、アーラシュは「大丈夫か?」と唯斗の顔を覗き込む。風邪でも引いたのかと心配してくれているようだ。
「大丈夫、でもそろそろ寝る」
「そうしろ。あ、添い寝してやろう」
するとおもむろに、アーラシュはいいことを思いついたとばかりに唯斗の肩を抱いてベッドに向かった。
一瞬何を言っているのか分からず、ワンテンポ遅れてから動きを止めた。
「いや何言ってんだ」
「ん?だって冷えたんだろ?それに、少しでも心細さを拭ってやりてぇし」
「それにしたってそんな物理的な方法じゃなくていいだろ…!」
アーラシュはベッドに唯斗を横たえると、自分も防具を消しながらその隣に横になる。そして、抵抗する唯斗の頭を、宥めるように撫でてきた。
「物理的だからこそ意味があんだろ。さぁほら観念しろ」
そうしてついに、アーラシュに腕枕される形で抱き込まれてしまった。
冷えた体にアーラシュの温もりは心地よく、包むように抱き締められる感覚は正直無条件に心が安心してしまう。
絆されるか、と抵抗を続けようとは思ったが、アーラシュは一言、「唯斗」と名前を呼んだ。それだけで動きを止めてしまう。そういう強さがあった。
「カルデアにいる俺はこれからもお前を守れる。でも特異点にいる俺は、これっきりだろ。だから少しでも俺に守らせてくんねぇか。な?」
「…、それずるいだろ……」
「はは、ちょっとくらいずるくてナンボだろう」
真摯な声は、こちらの抵抗意欲を削ぐのに十分だった。
事実安心するのは確かで、先日の二人きりでの狩りに際してぽつりと打ち明けてしまった心細さを、アーラシュがきちんと拾い上げようとしてくれていることが、ひどく嬉しかった。
ここまで言われてしまえば、もう断ることなどできない。唯斗はついに抵抗をやめて、そっとアーラシュの腕の中で目を閉じる。
できるなら、この特異点のアーラシュと、少しでも長く、できれば最後まで戦えたら、そう思いながら睡魔に身を任せた。