長編番外編−守る意思


太陽王と元無気力少年
特異点の自分に動揺するディルムッド


第五特異点から帰還して、検査など必要な措置を済ませた後は、とりあえずの休暇となる。報告書の作成があるため、休暇といっても完全に何もしないというわけではないのだが、それでも北米大陸を踏破したとあってはベッドが愛しく感じた。

帰還後すぐに倒れたマシュの容体も安定しているようで、立香は少し気が気ではないようであったものの、ロマニたちと何やら話をしていたため、そこは任せておいてよいだろう。
さすがに倒れたと聞いたときは肝が冷えたが、本当に大変なことになっているならもっとロマニが焦っている。その様子はなかったため、唯斗も落ち着いていた。

そうして自室で報告書の構成でも検討するか、と考えていると、ノックされる。誰かが訪ねてきたようだ。


「どうした…ってディルムッドか」

「今よろしいですか」


やってきたのはディルムッドで、部屋に招き入れるとおもむろに抱き締められる。


「うわ、なんだ」

「…特異点で私が現れたと聞いたとき、もしも私があなたを傷つけることがあったら、と思うと、居ても立っても居られませんでした」


どうやら、フィンとともにディルムッドが敵サーヴァントとして現れたと知ったときに、ディルムッドはそれなりに動揺したらしい。
サーヴァントである以上、今の自分とは異なる存在がサーヴァントとしてあり得ることに違和感はないはずだ。きっと、敵として出現したこと自体には驚きはなかっただろう。

ディルムッドは、自分が唯斗を特異点で傷つけるようなことがあったら、と考えていたようだ。


「自分を傷つけた相手となれば、たとえそれまで良好な関係であったとしても、避けたいと思うでしょう。いえ、場合によっては契約を解除するようなことすらあり得ます」

「そんな大袈裟な…」

「マスター。殺意とはそういうものです。殺意に基づく怪我は、たとえ軽くとも、精神的にダメージを負うものなのですよ」


いつもの大仰な表現かと思ったが、そうではなかったようだ。戦士としての、実感を伴う懸念である。


「…俺がディルムッドにそうやって傷つけられることで、カルデアのお前と距離を置いたり、座に還るよう言ったりするかもしれないって思ったわけだな」

「そうなってもおかしくないと」


ディルムッドの懸念も尤もだ。戦争帰りの軍人がメンタルに後遺症を負うようなものであり、まだ未熟な唯斗はそうなってしまっても確かにおかしくはない。

事実、ヘクトールにはいまだに距離を置いてしまっている。いや、同じランサーとしてそれを知ってのことだったのかもしれない。


「…そうだな。否定できない。誰が悪いとかはないけど、不安にさせたな」

「いえ、私自身、ここまで動揺するとは思っておらず、お恥ずかしい限りです」

「ふは、そりゃ、敵サーヴァントなのに俺への攻撃を躊躇ったくらいだしな」


霊基にまで影響を与えるほど、唯斗を守ろうという意思が強く働いたディルムッドは、アメリカにて一度だけ唯斗への攻撃を躊躇った。それは二度目のない奇跡のようなものでしかなかったが、確かにディルムッドの槍は止まったのだ。

それをディルムッドは管制室で聞いていたようで、抱き締めていた体を少し離して唯斗の頬を指先で撫でる。


「当然です。あなたを守る、それは今の私にとって最も重要な使命。まさかあれほどとは思ってはいませんでしたが、違和感もありませんでした」

「俺はさすがに驚いたけど…でも、うん、嬉しかった。素直に」


そう言って、唯斗は頬を撫でるディルムッドの手をそっと掴んで頬を寄せる。大きく武骨な手だが、唯斗を守ろうという意思の強さを、図らずして実感した今、その優しさが温もりになって感じられる。


「あなたが使命を果たすその日まで、ずっとお守りします。我が主よ」

「…うん、よろしくな」


残る二つの特異点を前に、こうして意志の強さを言葉以外でも教えてくれる味方がいる、それだけでまだ走れる気がした。



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