長編番外編−隣の大英雄


「太陽王と元機械人間」後
アキレウスと訓練する主


第五特異点から帰還し、オジマンディアスとの戦闘があってから少しして、唯斗は第五特異点で課題となったアキレウスとのパスの強化を訓練で行うことになった。

他にも様々な形の訓練をしているが、恐らくこれが一番きついだろう。

最初はシミュレーションで行っていたが、小特異点が大量発生したことを受けて、その解決がてら実践的な訓練に切り替えることにした。

さっそく管制室で、訓練の方法を検討しつつ特異点修正のためのブリーフィングをロマニ、アキレウスとともに行う。


「第五特異点が人理に与えた影響は極めて大きい。それは歪となって、周辺地域や同時代に多くの特異点を皺のように発生させた。多くは自然消滅するものだけれど、リソース回収の機会になる。もちろん、放っておけば悪化するものも多い」


ロマニは観測された無数の特異点のリストをホログラムで示しながら、いくつかをピックアップしていく。


「緊急性の高いものは別にオーダーを出すとして、今回は訓練を兼ねるものだから、修復が容易なものを選んだ。東海岸でのケルト兵の駆逐と、テキサスでのケルト兵および機械化兵の駆逐、どちらがいい?」

「初回だからニュートラルな方がいいな。気候の影響を受けやすいテキサスは後回しだ。東海岸の方で頼む」

「了解したよ。ではレイシフト座標はアッパーマンハッタン、破壊されたニューヨークの廃墟だ。周辺地域の掃討が任務となる」


18世紀末のニューヨークが今回のレイシフト先となるらしい。
都市そのものはケルト軍によって破壊された後のため、廃墟と化しているそうだ。


「とはいっても、敵は大した数じゃない、敵勢力がニューヨークに残っているというそれだけで特異点になっているだけだからね。アキレウス一人で十分だろう」

「分かった。じゃあ行こうか、アキレウス」

「おう、任せなマスター!」


レイシフトもタダではない。人数は可能な限り少ない方がいい。
アキレウスと二人、管制室からカルデアスの足元へと向かい、コフィンに入る。


そして重力が消えて引っ張られるような感覚がした途端、いつも通り、五感と重力が一気に戻ってきて目に光が差す。

レイシフトが無事に成功したことを報告しようと、辺りを見渡したその瞬間、最悪な状況に置かれていることが分かった。


「くっそ…!アキレウス!」

「分かってる!」


そこは、敵集団の真っ只中だったのである。

こちらに気付いて攻撃を仕掛けてくるケルト兵に、慌てて唯斗は結界を展開して牽制のガンドを放つ。
アキレウスもすぐに攻撃を開始したが、やはり突然のことだったため、隙ができる。

特に今回は、アキレウスが槍での攻撃を開始したために、自動的にそのレンジから唯斗を出すため距離が空いていた。唯斗は結界で自分を守ってはいたものの、数の利があった。

ケルト兵の一人が船の錨のような鉤爪型の鎖分銅を投擲し、唯斗は結界でそれを一度は防いだが、弾かれたそれが唯斗の右腕を捉えた。
鎖が勢いよく右腕に巻き付き、鉤爪が思い切り礼装と皮膚を突き破って唯斗の腕に突き刺さる。


「ぅぐ…ッ!」


痛みに呻きながらも、飛び散る鮮血の向こうにガンドを放った。鎖を投げたケルト兵は地面に倒れ、唯斗は突き刺さった鉤爪を引き抜いてすぐに治癒術式を展開した。同時に結界を周囲に張って攻撃を全方位から防ぐ。


「いッ…てぇ…!くそ、」


ダラダラと大量の血が鼓動に合わせて地面に垂れていく。通信機はこの爪によって破壊されてしまったらしく、機能していない。

なんとか止血には成功したところで、結界の外から声がかけられた。


「マスター!片付いたぞ、大丈夫か!?」


アキレウスの言葉に、唯斗は結界を解く。白い礼装の右腕を真っ赤に染めて、足元の土が赤黒くなっているのを見て、アキレウスは目を見開いた。


「怪我してんじゃねぇか!」

「…大丈夫、必要な措置はしてる、けど…結構、血ィ流したな…」

「いったん隠れるぞ!」


アキレウスはそう言って唯斗を抱き上げると、近くの廃屋に向かった。
3階建ての煉瓦の建物だが、内部が崩落しており、半分近くが瓦礫となっている。その残った区画に入ると、アキレウスはそっと唯斗を床に下ろして壁に凭れさせた。

オランダ風の建築なのは、ニューヨークがもともとニューアムステルダムと呼ばれたオランダの植民地だったからだ。第二次英蘭戦争によってイングランド領となったあとに建物も変わったが、それでもアッパーマンハッタンのような古い郊外にはオランダ建築が残っているようだった。



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