大都会のシルヴァンドル−3


思ってもみなかった申し出に、つい驚いてしまう。確かに、ランチタイムが終わって唯斗のシフトは終わりだ。今日はオープンからシフトが入っていた。
とはいえ、まさか店員を誘うなんていうことが本当にあるとは思わず、つい動揺してしまう。


「…ナンパって連鎖するものでしたっけ……?あ、やべ。失礼いたしました」


そうして口からぽろりと出た言葉に、慌てて謝罪するが、それを聞いた父親はぽかんとしたあと小さく噴き出した。


「ふっ…それは私も初耳だ」


息子の方も少し肩を震わせている。この親子が笑っているところ初めて見た。あの女性客たちに対して、あるいは唯斗に対して笑顔ではあったが、あれはマナーとしての笑顔だ。

たまにはこういうのも悪くはないのかもしれない、と思った唯斗は、まずは確認を取ることにした。


「ご一緒できるかどうか、上に確認を取ります」

「ふふ、分かったよ」


テーブルからレジの方へと向かうと、厨房の扉からこちらを覗くけばけばしい顔が見えた。少ししか見えていないのに存在感がすごい。


「店長、」

「聞こえてたわよ!すんごいイケメンがいるって聞いたから覗いてみたらうちの子がナンパされてるんだもの、ウケるわよねー!いい機会だからOKしてきなさい、きっとあなたにとって良い方向に向かうわ。あたしの勘当たるんだから」

「あー…はい、じゃあ行ってきます」


唯斗はギャルソンだけ外してペペロンチーノに預かってもらい、店内に戻る。あんなふざけた感じではあるが、本当にペペロンチーノの直感は当たるのだ。
スタッフに何か食べるか聞かれ、昼食は確かにまだだったものの、最近は一日二食が普通だったため、賞味期限が近いレジ販売用の焼き菓子だけいくつかもらって、コーヒーとともに親子の席に向かった。


「OK出たので、ご一緒しても?」

「よかった、どうぞ」


すかさず、息子の方が隣を開けてくれた。四人掛けのテーブルだったため、息子の隣に座って正面に父親がいるという形になる。


「それだけいいのかい?昼食は」

「あー…お構いなく、これで十分なので」


少し納得いかなさそうにしながらも、「それでは」と父親の方が改めて切り出す。


「私はランスロット・ベンウィック、フランス語ではランスロ・ド・ベノイックという。こちらは息子のギャラハッド、フランス語ではギャラードだ」

「ギャラハッドです、よろしく」


改めて、父親の方がランスロット、息子の方がギャラハッドという名前らしい。冠詞のドが名前に入っていることや金持ちそうな様子から、貴族の家系だとすぐに分かる。


「俺は雨宮・グロスヴァレ・唯斗と言います、フランスと日本のミックスです。俺も日本で暮らし始めてから4年くらいなんですけどね」

「唯斗君は大学生かな?」

「いえ、高校生です」


中学生などに間違われるならまだしも年上に見られるとは思わず、少し驚く。
ランスロットは「失礼」と謝りつつ、どうしてそう思ったのか教えてくれた。


「アジア人は若く見えるというのは知っていたから、実際のイメージからやや上に見ておくべきかと思ったんだが…ギャラハッドと同じくらいか」

「フランスで言うと、リセのセコンドに当たります」

「っ、では一つ上ですね。僕はコレージュを卒業するタイミングでしたので」


フランスでは、コレージュという学校が日本の小学校6年生から中学校3年生にあたる。高校にあたるリセは3年間で日本と同じだ。
この春に高校2年になる唯斗の一つ下、中学卒業を控えたところだというが、白人であることを差し引いてもギャラハッドは大人っぽい。



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