大都会のシルヴァンドル−4



「すごいな、ギャラハッドの一つ上なのに、日本ではもう就労できるのか」

「パートタイムですけどね。制限も多いです」


フランスでは16歳未満の就労はすべて原則として禁止されており、日本と同じく芸能活動などの部分的な例外しかない。
日本の場合、就労だけなら中学生から可能だ。新聞配達などがそれにあたる。
そもそも、フランスでは年齢と学年は推奨として対応しているだけで、時に前後する。日本では基本的に年齢と学年は一致するため、中学生、高校生、大学生というようにバイトの募集要件なども分けられる。
そのため、フランスにおいて15歳が必ずしもリセに進学しているとは限らないことから、厳密に年齢で区切られるのだ。


「唯斗君はフランスではどちらに?」

「ドル=ド=ブルターニュにいました。日本人が暮らすような場所ではないですけどね」

「そうなのか!いや、実は私も…私たちもブルターニュに実家があってね。レンヌの郊外に家があったんだ。これは奇遇だね」


どうやらランスロットたちもブルターニュ地方の出身らしい。
フランス北西部のブルターニュ地方は、その名の通り古代イングランドの文化を色濃く残すケルト文化の地域だ。
唯斗が暮らしていたドルという田舎町は、ブルターニュの中心都市レンヌから電車で一本のところにある。レンヌもパリと高速鉄道で一本のため、田舎町ではあったが乗り換え一回でパリに着けた。

なぜか実家のことを示すときに、ランスロットは「私」から「私たち」に言い変えたが、一瞬、ギャラハッドの表情が険しくなったのが見えた。
これは厄介な家庭の事情を抱えていそうだと思ったが、思えば唯斗もそれは同じだ。そんなところまで奇遇にも似ているらしい。

その後も、フランスのことや仕事のことなど色々と会話が弾んだ。あまりギャラハッドは加わらなかったが、唯斗に対する態度は柔らかかった。
ランスロットは英国のキャメロットグループという大企業に属する証券会社、アロンダイト証券の若きエリートらしく、日本支社の立ち上げに伴い赴任してきたとのことだ。そのため、二人とも暮らしていたのはレンヌではなかったとのことだった。

どうせあとは、この店にたまに来ては挨拶だけ軽くするような、そんな間柄になるだろうと思って深く考えることはしなかったのだが、1時間と少しほど話したところで、ギャラハッドから話題を切り出した。


「唯斗さん、よければ東京を案内してもらえませんか?ずっとパリにいたので、アジアは旅行すらしたことがなかったんです」


距離を詰めようとする様子のなかったギャラハッドからそんな提案をされると思っていなかったため、またも驚いてしまう。「次」があるとは予想外だ。
しかも、ランスロットも頷いている。


「日本に来て同年代の友人ができるのは心強いだろう。急な転勤だったから、私も心配していたんだ。よければ息子を頼んでもいいだろうか」


そう言って、ランスロットはレジの方へと向かった。唯斗の分と、先ほどのコーヒーも払うのだろう。テーブルに二人となり、唯斗は穏便に断る方法など知るほどコミュニケーション能力が高くはないため、もはや応じるほかない。


「…じゃあ、俺でよければ。いつにする?」

「僕はしばらく予定ありませんので。唯斗さんはいつ空いてますか?」

「来週の土曜も、今日と同じシフトだから、午後でどうだ」

「分かりました、ありがとうございます」


なんだかおかしなことになってしまった。また来週、この店でシフトが終わる時間に待ち合わせて案内をするということでまとまり、ランスロットたちは帰っていった。

通っている高校で唯斗は友達など作っておらず、この1年間ろくに人付き合いはしてこなかったというのに、まさかバイト先の客と遊びに行くことになるとは。
人生何が起きるか分からない、という言葉において最も説得力のあったペペロンチーノが浮かぶ。いったい何があったらああなるのか不明だが、本当に、人生とはこんなこともあるものなのだな、と独り言ちた。



prev next
back
表紙に戻る